判断能力が低下してからの相続対策は困難
財産を守るために活用したい後見制度
平均寿命が世界一となってから長い年月が経ち、他に例を見ないほどの長寿国になりつつある日本。これに伴い、認知症になる人も爆発的に増加しています。
認知症になると意思能力が低下するため、自分の財産管理も困難になります。また、契約行為もできなくなるため、日常生活に支障をきたすようになります。このような事態を避けるために、本人に代わって財産管理や契約行為を代理で行う「後見人」を選任することができます。
成年後見制度の一つ「法定後見制度」
成年後見制度には「法定後見制度」と「任意後見制度」の2つがあります。法定後見制度は、精神上の障害 (知的障害、精神障害、認知症など)により判断能力が十分でない人が不利益を被らないように、家庭裁判所に申立てをして援助してくれる人を付けてもらう制度です。たとえば、一人暮らしのお年寄りが悪質な訪問販売員に騙されて高額な商品を買わされてしまうなどといったことをよく耳にしますが、 こういった被害も法定後見制度を上手に利用することによって防げる場合があります。
法定後見制度は精神上の障害により判断能力が十分でない人の保護を図りつつ、自己決定権の尊重、残存能力の活用、ノーマライゼーション(障害のある人も家庭や地域で通常の生活をすることができるような社会を作る)の理念をその趣旨としています。 よって、仮に成年後見人が選任されても、スーパーで肉や魚を買ったり、お店で洋服や靴を買ったりするといった、日常生活に必要な範囲の行為は、本人が自由にすることができます。
法定後見制度の落とし穴に注意
判断能力がなくなってから法定後見制度を利用すると、資産は事実上凍結されます。そのため、相続対策として土地活用(賃貸住宅建築など)を進めている途中で、認知症や脳疾患などで本人の判断能力が失われると、銀行の融資が下りなくなったり、引き渡しの段階で裁判所から許可が下りなくなったりするケースがあります。
こうした場合でも、後見人が本人に代わって計画を進めてくれると思っている人も少なくありませんが、それはできません。本人の財産を保全することが後見人の役割ですから、贈与や寄付、投資、利益相反行為は原則としてできないのです。
もちろん、融資を受けて賃貸住宅を建てることもできません。賃貸住宅建築という相続対策は相続人のためのものであり、本人の利益になることではないからです。
居住用としている不動産は、本人が住んでいる、いないに関わらず、売却、賃貸借、抵当権の設定、建物の取り壊しなども、本人にとって具体的な必要性がなければ認められません。本人が意思を表明しても、資産がほぼ凍結された状態をくつがえすことはできないのです。
柔軟性に富んでいる任意後見制度
「法定後見制度」と「任意後見制度」の違い
「任意後見制度」が「法定後見制度」と違うのは、それを利用する時期です。「法定後見制度」は本人の判断能力がなくなってから、「任意後見制度」は本人の判断能力があるうちに利用します。そして「法定後見制度」では、事実上資産が凍結されてしまうのに対して、「任意後見制度」では、自分で選んだ後見人に、財産の保存・管理・処分について、自分の意思を託すことができるのです。
居住用不動産についても、処分の許可を任意後見契約の内容に明記していれば処分できます。一般的には契約書に代理権目録を作成して細かい内容を書きます。ここには、財産の管理、相続対策のほかに、医療、介護に関わることなどを記載していきます。
そして、後見人には監督人のチェックが入ります。違法性はないか、妥当性はあるかといったことです。例えば、アパート経営を始める際に組むローンの金額が妥当か、といったことです。これには、税理士によるシミュレーションを付けるなどしておけばわかりやすいでしょう。
内容に関しては、途中で変更があれば書き換えることもできます。任意後見制度は、将来の”万が一”に備えることのできる制度なのです。
制度の活用については専門家への相談を
成年後見制度は、まだあまり知られていませんが、これからの社会状況では必要とされるであろう制度です。ご自分の財産や相続対策について心配な方は、こうした制度に詳しい専門家に相談してみましょう。
とはいえ、成年後見制度で可能な相続対策は限られています。お元気なうちに複数の観点から検討し、相談するのがベターといえるでしょう。