コロナ禍による地価の上昇傾向の鈍化
全国の路線価は5年連続の上昇
相続税や贈与税の算定基準となる2020年分の路線価が7月1日、国税庁から発表されました。全国32万地点の標準宅地は19年比で1.6%の上昇(2019年は1.3%)。これで全国平均は5年連続の上昇となり、上昇率も拡大する傾向にあります。(図1参照)
前年より平均路線価が上昇したのは21都道府県(昨年は19都道府県)。上昇率1位が沖縄県、2位が東京都というのは昨年同様です。最高路線価で知られる銀座5丁目の鳩居堂前は、35年連続で日本一となりました。(図2参照)
しかし、この路線価は1月1日時点のものであり、その後のコロナ禍の影響で地価は大幅に下落する可能性があります。そのため国税庁では、調査対象地域を決めたうえで再調査を委託し、路線価の補正率などを10月以降に定める方針です。
コロナ禍で地価の上昇に歯止めがかかる
路線価の補正の際には、国土交通省が四半期ごとに出している「地価LOOKレポート」も参考にされます。6月19日付の国土交通省のプレスリリースでは、2020年1月1日〜4月1日の地価動向を調査した地価LOOKレポートを踏まえ、主要都市の地価動向の傾向に変化があるとしています。(図3参照)
全体としては緩やかな地価の上昇が続いたものの、上昇地区数が97から73に減少。横ばい地区数が3から23に増加しました。商業系の地区でも6年ぶりに下落地点が出ています(横浜市元町、岐阜市岐阜駅北口、高松市丸亀町周辺)。
地価の上昇が鈍った主な要因として、プレスリリースでは以下の2つを挙げています。
- 新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、多くの地区で需要者の様子見など取引の停滞が見られ、地価の上昇傾向が鈍化した。
- 地価動向の変化が大きかった地区では、特にホテル、店舗需要の比重が高く、感染症の影響が大きい。
国土交通省によるこうした評価は4月1日時点のもの。その後も新型コロナウイルスの感染の終息には至らず、長期戦を覚悟せざるを得ない状況です。インバウンド目当ての観光地の不況は深刻で、ホテル用地への資金投入はストップせざるを得ないでしょう。こうした状況が続くことを前提に、不動産価格の上昇の鈍化、そして下落に転じる可能性も考慮して、土地活用を考えていく必要があるといえます。
地価下落と融資審査の厳格化に備える
担保価値の低下につながる土地の値下がり
不動産価格の下落が懸念される現在の局面で、所有している土地の活用について様子見(放置)した方がよいのか、それとも早めに活用を決断した方がいいのかは迷うところです。
コロナ禍が継続中の現在、景気やビジネス環境、市況の変化などが賃貸事業に及ぼす影響がどのようなものかを判断するため、まずは様子見という選択をされる人も多いことでしょう。
一方、様子見のリスクとして考えられるのは、地価が下落することによる担保価値の目減り。日銀の金融緩和政策による低金利状態が続いている現在は融資を受ける好機といえますが、土地の担保価値が低下すれば、金融機関が提示する融資の条件が厳しくなる可能性があります。
融資審査の厳格化は現在も継続中
日銀のデータによると、2016年をピークに「個人による貸家業」への融資は減り続けています。2020年の1〜3月期は増税を控えての駆け込み需要により前年を上回ったものの、今後は融資の審査がより厳格化される見通しです。(図4参照)
融資審査が厳格になったきっかけの一つが2018年に起きたシェアハウス関連の不正融資問題です。マスコミでも連日報道されたこの事件後、金融庁がアパートローンや賃貸事業に対する事業融資の審査を厳しくするよう金融機関に求めたため、融資が受けにくくなり、現在もその状況は続いています。
これまでは好景気により地価が上がり続けていたため、土地を所有していればいつでも融資を受けて土地活用ができましたが、今後、状況は厳しくなる可能性があります。こうしたことを踏まえ、土地活用の検討を行うのが賢明と言えるでしょう。