法人化で課税所得の圧縮や相続対策が可能
賃貸経営における法人化という選択肢
賃貸経営などの不動産投資の規模が大きくなってくると、法人を設立したほうが節税になるのではないかと思われる方が多いと思います。では、いったい法人化はいつしたらいいのでしょうか?
巷では「家賃年収1,000万円を超えたら」「部屋数30戸以上」など、法人化の基準についていろいろな説が飛び交っていますが、これらは必ずしも正しくありません。なぜなら、家賃収入が大きくなっても、経費がたくさんかかって利益が出ていないようであれば、法人化をするメリットが小さいからです。また、そもそも人によって法人化のタイミングは変わってくるものです。いずれにしても、「利益があまり出ていないので法人化で改善を」という安易な発想はいただけません。
法人化が得になるボーダーライン
法人化を考える一つの判断基準は、個人と法人の税率の違いです。個人は所得税がかかりますし、法人はもちろん法人税がかかります。節税は、これらの税率の差を利用することで行うことになります(法人税の方が低い)。
法人化に踏み切る判断基準の一つとして、「家賃収入から必要経費を差し引いた額(課税所得金額)が900万円を超えている」というものがあります。
所得税と住民税を合わせた税率を比較すると、個人は695〜900万円の場合税率33%、900万円を超えると43%なのに対し、法人の実効税率は課税所得金額800万円超でも税率約31%(政府方針で税率は引き下げのトレンドにあります)なので、法人の方が安くなるのです。
条件が揃えばメリットがある法人化
法人化により、人件費を経費として組み込むことができます。個人でも青色事業専従者給与として家族に給料を支払うことはできますが、ほかに仕事をしていると青色事業専従者として認められないといった制約があります。しかし、法人ではこの制約なしに役員報酬を支払うことができます。
1,000万円の課税所得がある場合
○個人の場合→所得税と住民税を合算した累進課税
○法人で役員報酬として自分と妻に500万ずつ支払った場合→法人の利益は圧縮され、累進課税も低くなる
法人化にはこのほかにも、欠損金の繰り越しが可能などのメリットがあります。下の図表をご参照下さい。
単純には考えられない法人化の基準
法人化することによって「所得または利益の課税率を下げる事ができるのでメリットが大きい」と単純に考えるのは早計です。法人化すると個人より一層厳密な会計処理を要求されますし、会計業務に関する費用なども発生してきます。
個人事業の場合、事業に関連して支払う接待交際費は全て必要経費となります。ところが法人化をすると、一定の金額までしか費用として認められません。たとえば、資本金が一億円以下の法人の場合は、年間で800万円を超える部分については交際費の損金算入ができないのです。これ以外にも法人には様々な規定があり、単純に一定金額以上の収入があるから法人化がよいとは言えません。
法人化によるデメリットも考えたい
法人化には経費がかかる
法人の設立費用として、登録免許税、実印や社印などの印鑑の作成費用、司法書士への報酬なども必要になります。建物を法人に譲渡する場合には、不動産取得税や、不動産登記における司法書士への報酬などが発生します。
法人化すると、赤字でも均等割と呼ばれる地方税が発生します。また、社会保険料は強制加入になりますし、健康保険料や厚生年金保険料は労使折半で合計28%以上かかるので重荷になります。
個人なら制限がない交際費も、法人では一部が認められない場合があります。このように、法人化にはリスクも伴いますので、現在の収支状況をベースに、メリットが上回るかどうかをよくよく検討する必要があります。
適当な役員候補がいなければ法人化は難しい
法人化にあたっては、適当な役員候補がいるかどうかも考慮しなければなりません。たとえば役員候補の子供が会社員の場合、副業禁止の規定に引っかかるため役員になれないというケースもあるからです。
また、65歳以上で厚生年金を受け取っている人の場合、役員報酬を受け取ると厚生年金額が減額される可能性があり、メリットが相殺されてしまいます。
専門家のアドバイスで多くの要素を踏まえた検討を
安定的な課税所得が一定程度あるかどうか……法人化を考えるスタートはこれでいいかもしれません。しかし、一口に法人化といっても考えるべき点が多いことがおわかりいただけたかと思います。
法人化を決断するかどうか、法人化したとして、どのように進めていくか。なかなか個人の手に余るというのが実情かと思われますので、税理士などの専門家のアドバイスを得ることをお勧めいたします。(生和コーポレーション営業企画部編集)