約120年ぶりの民法大改正と不動産賃貸借
「民法の一部を改正する法律案」(民法改正法案)が、2015年3月に閣議決定。2017年4月14日に衆議院を通過し、5月26日に参議院本会議で可決されました。公布から3年以内の施行となります。
敷金の扱いなどは改正後どうなる?
今回の改正には、敷金や修繕義務、原状回復費の負担、賃貸借契約の個人保証人との関係など、賃貸オーナー様にとって重要なものが含まれています。
敷金についての定義付けが行われ、賃貸借契約終了時に敷金を返還することが義務付けられます。原状回復については、通常使用による損耗と経年変化に関しては、賃借人が修繕しなくてもよいと明記されました。
現状と異なる点はないのですが、民法改正が広く認知されると、「敷金は必ず返ってくる」といったイメージが浸透し、必要以上に敷金の返却を要求する賃借人が増える可能性があるといえます。
改正のポイント
- 敷金の性質や返還時期の明確化。
- 賃借人は預けている敷金で賃料を払うことができないことなどを明文化。
- 賃貸人は、賃貸借期間の途中でも、賃借人の債務弁済に敷金を充当できます。
- 一方、賃借人は敷金から充当することを賃貸人に請求できません。
賃貸経営上の注意ポイント
これまで敷金の定義、敷金返還債務の発生要件、充当関係などの規定はありませんでした。ただし、内容的にはこれまでの判例や一般の理解に沿ったものといえます。
原状回復
原状回復義務に関して、特約で例外を設けることは禁じていない。畳の日焼けなどの通常損耗も、特約によって原状回復を求めることは可能。
個人保証の制限による賃貸経営への影響は?
賃貸借契約時に個人が連帯保証人になる場合、保証極度額を開示しなければなりません。これまでは責任の範囲が賃借人と同等とされ、極度額(保証人が責任を負う最大額)は設けられていませんでした。今後は「家賃10カ月まで」「100万円まで」といった極度額を設定し、保証契約を書面などで残さなければ保証契約は無効となります。
保証人の保護を目的とした改正なのですが、責任範囲が明記されることで連帯保証人になることをいやがる人が増える可能性もあります。そのため、家賃債務保証会社の利用が増えるかもしれません。
改正のポイント
個人保証は、極度額を定めた契約書を交わさなければ無効。(書面または電磁的記録で契約されなければ無効)
賃貸経営上の注意ポイント
保証人保護のため「極度額を定めなければ無効」などの改正は、2004年に行われています。今回の改正では個人保証人保護をより広い範囲で行っています。賃貸借契約などの保証人の責任には限度があり、支払請求にも限度があることを理解する必要があります。
家賃の消滅時効期間や修繕義務なども規定
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- 家賃の消滅時効期間
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不動産の家賃債権は5年で時効消滅することが原則(結局、改正前と消滅時効期間は同じになった)。
新たに時効完成猶予の手段を規定。例えば、5年半前に1ヶ月分の家賃が未払いの場合、未払いであることを賃借人が承認するなどしない限り時効消滅。改正民法では、未払いになってから5年以内に支払いについて協議することとし、協議期間を1年とすると書面などで合意したときは、その1年が経過するまで時効が完成しない。したがって、裁判などをしなくても払ってもらえる手段が加わったことになる。
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- 家賃滞納等と遅延損害金の利率
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低金利が続いているため、法定利率を年5%から年3%に変更。家賃の遅延損害金が賃貸借契約に定められていない場合はこの法定利率による。なお法定利率は、法務省令で3年ごとに見直される。
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- 補償契約時の情報提供義務と保証の取消
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賃借人が資産状況などについて虚偽説明をした際、保証人は保証取消が可能。
賃貸契約の実態に即した内容に改正
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- 賃貸人の修繕義務の範囲
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賃借人の責任以外で壊れたものは、賃貸人が修繕義務を負う。
賃借人が素振りで割った場合の修繕義務はなし。無関係な子どもが割ったガラスは賃貸人が修繕義務を負う。
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- 賃借人の修繕権
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必要な修繕は賃借人が行える。必要費であれば賃貸人に請求可。
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- 賃借人の収去権、収去義務
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取り外し可能な附属物の撤去義務は賃借人が負う。以前は権利だけが定められていた。
賃貸人が収去を要求しなければ、賃借人は収去権を放棄して置き去りにできる。置いていったエアコンの代金を賃借人が請求することはできない。
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- 一部使用不能と賃料の当然減額
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賃借人の責任ではなく賃借物の一部が使用できなくなった場合、賃料が当然に減額される。
雨漏りなどで部屋の一部が使えなくなった場合、賃料が減額される。賃借人は賃料の支払いを拒否することはできない。
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- 転貸と賃貸借契約解除
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転貸(サブリース)について明文化。賃借人(転貸人)から賃貸人への賃料不払いで賃借人の契約が解除されると、転借人も退去しなければならない。
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- 賃借人の妨害排除請求権
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所有者ではない賃借人も第三者の妨害排除が可能。第三者が勝手に賃借物件を占拠しているケースなど。
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- 賃貸人の損害賠償請求権の消滅時効
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物件明け渡し後1年間は契約違反による賠償請求が可能。明け渡し後に部屋の破損が判明したケースなどに適用される。
トラブルを防止するためにサブリースも選択肢に
約200項目に及ぶ民法の大改正。賃貸経営に関連する部分では、これまでの判例をもとに、おおむね実態に合った内容とされていますが、民法改正を意識するあまり、契約やトラブルの解決に時間がかかるケースの増加も予想されます。オーナー様にとって、家賃の消滅時効や滞納に関する部分などは、ビジネス上気になるところでしょう。
トラブルの対処には、豊富なノウハウを持つ管理会社の活用が有効。オーナー様から一括借上げするサブリースなら、空き室の有無にかかわらず収入が保証されます。サブリースの場合、賃貸経営全般を専門家にまかせられ、オーナー様の負担がほとんどなくなるというメリットもありますので、ご検討されてはいかがでしょうか。