世界でも例を見ない高齢化社会への対応が課題
高齢者の増加で高まる財産管理のリスク
高齢化社会のいわば先進国として、世界が経験したことのない領域へと突き進んでいる日本。65歳以上の高齢者はすでに国民の1/4以上を占め、認知症の人も増えています(図1参照)。
そして、日本の個人金融資産の約7割は60歳以上が保有しているとされています。核家族化や高齢者の認知力の低下などにより、相続や資産承継で家族が頭を悩ませる事態は増えていくと言えるでしょう。
老後の財産を守る成年後見制度と家族信託
認知症などで判断力が低下した場合に備え、財産管理や契約行為を代理で行う後見人を選任できるのが成年後見制度。「法定後見制度」と「任意後見制度」の2つがあります。法定後見制度は本人の判断能力がなくなってから、任意後見制度は判断能力があるうちに利用します。前者では資産が事実上凍結されてしまうのに対し、後者では自分で選んだ後見人に財産管理・処分について自分の意志を託すことができます(図2参照)。
民事信託と家族信託
個人信託は民事信託と家族信託に分類できます。
- 民事信託
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受託者が信託報酬を得ないで行う非営利信託。信託業法の制限を受けませんので、受託者は個人・法人のどちらでもなることができます。
- 家族信託
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民事信託の一種。家族や親族を受託者として財産管理をまかせる仕組みを指します。
家族信託では、信託の仕組みを利用し財産の管理や承継を行います。2007年の改正信託法で高齢者の財産管理や遺産の承継に信託を利用しやすくなりました。信託銀行を受託者とする一般的な信託と違い、家族などに受託者となってもらうことができます(図3参照)。
成年後見制度にない家族信託のメリット
認知症になってしまったAさんに後見人が付いている場合は、自宅不動産の売却に家庭裁判所の許可が必要です。しかし、よほどの理由がないと財産の活用は許可されないので自宅の売却はできず、相続されるのを待つしかありません。
委託者の希望をかなえる柔軟な家族信託制度
こうしたケースでは、後見人制度よりも家族信託の「財産分離機能」が有効です。なぜなら、自分の意志で財産を自由に切り分け、信託する・しないを選ぶことができるからです。また、財産ごとに別の受託者を決めることも可能です。受託者は家族などになるため、司法書士や弁護士などが後見人となった場合に比べ、報酬コストが低い点も魅力です。
なお預貯金は信託せずに残しておき、それを年金の受取口座にして日常生活の費用に充て、その部分に関しては後見人に任せるといったことも可能です。
家族信託の活用については専門家に相談を
家族信託はまだそれほどの知名度を得ていませんが、今後、活用事例が増えてくると思われます。老後の財産管理について心配されている方はお元気なうちに、司法書士などに相談してみましょう。生和コーポレーションでも、こうした専門家を交えてお手伝いさせていただきますので、お気軽にご相談ください。
家族信託の活用例①
Aさんは資産の運用や、相続税の納税資金を作るために不動産の一部を処分したいと考えています。しかし、将来自分が重病や認知症になった場合にそれができなくなるのではと心配しています。
- Aさんが元気なうちに子などを受託者として家族信託契約を結ぶ
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Aさんの判断力の低下が見られた場合でも、子が生活費などを代わりに支出できます。契約内容によっては、納税資金のために不動産を処分することも可能になります。
後見制度の利用もできますが、後見制度はあくまで本人の財産管理のためのものなので、リスクを覚悟した上での資産運用はできません。一方、家族信託であればこうした希望にも対応することができます。
家族信託の活用例②
自宅の土地・建物を所有しているBさんが介護施設に入所することになりました。子のCさんは親の自宅を売却して入所費用を確保しようと考えています。Bさんは自宅のほかに株式や投資用マンションも所有しており、こちらは別の子に財産管理をまかせようと考えています。
- Bさんの自宅不動産……子のCさんを受託者と定め、その受益権を処分して金銭に換える権限を与える
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Bさんが認知症になった後でも、後見人とは関係なくCさんの裁量で不動産を売却できます。売却代金は「金銭信託」となり、Bさんのために使うことができるようになります。
Bさんが出た自宅を早い時期に売却すれば、自宅不動産の売却として所得税に関する各種の控除を受けることもできます。売却できないまま相続になっても、二次受益者をCさんにしておけば、自宅不動産は遺産分割協議の対象にならず、Cさんに受益権が確実に移動することになります。
- Bさんの株式、投資マンション……Cさん以外の子どもを受託者とする
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Cさん以外の子や親族に「受益者代理人」という役割を与えれば、Bさんが認知症になった後も一定範囲での信託契約の変更が可能となり、柔軟な財産管理を実現することもできます。