土地の活用法によって変わってくる相続税
再び増加に転じた賃貸住宅の着工数
国土交通省が発表した2018年の「住宅着工動向」によると、新設住宅着工戸数が前年比2.3%減の94万2,370戸で、2年連続の減少となりました。このうち、貸家は5.5%減の39万6,404戸で7年ぶりの減少となっています。減少の要因としては、金融庁によるアパートローンの監視強化などが挙げられます。しかし、2019年2月の新設住宅着工戸数は前年比+4.2%と増加に転じました。前月に比べると貸家の増加幅が大きく、減少基調が続いた反動が出てきているようです。(図1参照)
東京都が発表した2019年3月の住宅着工統計によると、新設住宅着工戸数は1万46戸(前年同月比4.6%増)と、2カ月ぶりに増加しました。持ち家が1,222戸(同7.8%増)と2カ月ぶりの増加。貸家は4,941戸(同0.9%増)で3カ月ぶりの増加となっており、地方に比べると、都市部における金融機関の引き締めの影響は少ないようです。
相続税対策として有効な賃貸住宅の建設
ここ数年の貸家の着工戸数の増加は、節税対策が要因の一つと考えられます。2015年の相続税アップをきっかけに、土地の活用法で相続税が変わる点に注目が集まりました。その結果、賃貸住宅の建設で資産の評価額を下げ、相続税対策とする人が増えたのです。
そもそもなぜ、賃貸住宅の建設が相続税対策になるのでしょうか? 次の3点がポイントとなります。
Point 1 |
税法上の建物の評価額は、現金などの金融資産よりも低くなる |
Point 2 |
賃貸住宅の場合、土地の評価額も低くなる |
Point 3 |
小規模宅地の特例が受けられれば、相続税評価額が下がる |
以下で、それぞれのポイントについて具体的に見ていきましょう。
Point 1
現金を建物に変えて相続資産を圧縮
一般的に建物の相続税評価額は、建築代金の6割前後。現金で建物を建設するだけで評価額が下がるということになります。現金を建物に変えるのは簡単ですが、建物は換金性が低いため、評価額が下がるのです。
Point 2
賃貸住宅として貸せば資産評価がさらに減る
相続税法上、賃貸住宅が建つ土地=「貸家建付地(かしやたてつけち)」は、約2割の減額評価となります。他人の借家権の発生によって土地所有者の権利が制限されるため、借家権分の価値が減額されるのです。
Point 3
小規模宅地の特例措置で相続税評価額は最大8割減に
被相続人の賃貸用敷地については、200㎡までの部分について評価額の50%を減額できます。さらに特例として、被相続人の事業用(賃貸用を除く)の敷地のうち、「被相続人の親族が取得し、その事業を相続税の申告期限までに承継・継続しており、かつ、申告期限までその宅地を保有している」ものなどについては、敷地のうち400㎡までの部分について評価額の80%を減額できます。(図2参照)
老朽化した建物や未利用地を相続するリスク
老朽化した建物や更地を相続した場合は要注意
不動産を相続する場合、古い建物など不良資産と言えるものが含まれることがあります。老朽化が進んだ建物は、メンテナンス費用の増大や災害による倒壊の危険など、相続しても頭痛の種となります。思い切って取り壊すという選択もあるでしょう。しかし、更地にしたまま放置していると、土地に対する税金の優遇措置を受けることができません。
居住地以外の土地を所有している人は約20%で、その中の約40%が未利用地を所有していると言われています。土地を利用しない理由は、「遺産として相続したものの利用する予定がない」がトップ。相続税や固定資産税を漠然と支払っているという状況です。
改めて点検したい相続税対策
土地活用による資産の圧縮効果で言えば、建物の建設が最も有効。賃貸住宅であれば、家賃収入も見込めます。ただし、家賃収入で相続財産が増えると、資産の圧縮効果は低くなります。また、土地の評価額の変動で納税額が変わることもあり、なかなか一筋縄ではいきません。相続についてあまり考えたことのない人はもちろん、以前に土地活用による相続対策を実行している人も、近年の地価高騰や2015年の税制改正で状況が変わっているかもしれませんので、節税対策をシミュレーションしてみるべきでしょう。
遺産の土地の相続は「争続」になりやすい
遺産が現金の場合は相続の分割も均等にできますが、不動産は評価が難しく、平等に分けるのも困難です。
不動産を分ける方法として「現物分割」がありますが、一つの土地を平等に分けるのは難しいものです。不動産を売ったお金を分割する「換価分割」は、売却の決断ができるかが問題。一人が不動産を相続し、他の相続人に相当分の金額を支払う「代償分割」は、金銭の用意や賃料で支払う取り決めなどの事前準備が必要です。決断を先延ばしにして「共有」という選択もありますが、持ち主全員の意思統一が難しく、いわゆる「争続」となる可能性があります。