賃貸需要に直結するのは人口よりも世帯数
全国的には減少しているが都市部では増えている人口
「人口の減少に歯止めがかからない現在、賃貸住宅の需要はどうなるのか?」
このようなマスコミの決まり文句は、賃貸マンション経営を検討される方にとってやはり気になるところ。この数年、都市部を中心に路線価の上昇が続き、不動産市況は活気づいていると言ってよい状況ですが、賃貸住宅の将来性はどうでしょうか?
国勢調査は2015年に行われたものが最新ですが、その速報によると、大正9年(1920年)の調査開始以来、初めての人口減少となりました。2019年3月の総務省統計局の確定値では、人口は1億2624万8000人で、2010年から減少しています。
人口は39道府県で減少していますが、東京圏は増えて3613万人に。名古屋、大阪、福岡など、政令指定都市を中心に増加しています。
住宅需要に直結する世帯数は増加している
出生率が低いため、人口の減少は不可避の状況ですが、世帯数はどうでしょうか? 実は、人口が減少に転じたのにも関わらず、世帯数は2010年から5年間で145万3千世帯増えて5340万3千世帯となっており、2.8%増となっています。当然、1世帯あたりの人員は減り、2.46人から2.38人になりました。(図1参照)
賃貸住宅の需要は、人口よりも世帯数により影響されます。世帯が増えれば、基本的に必要な住居の数も増えるからです。
単独世帯など少人数の世帯が約7割に
人口が減少しているのに世帯数が増えている要因は、ライフスタイルの変化と考えられます。高齢化や晩婚化、生涯未婚率の高まり、離婚率の上昇、これらのいずれもが単独世帯の増加につながります。「夫婦のみ」、「ひとり親と子」の世帯も増えており、将来的にはこうした少人数の世帯が7割に達するという推計があります。(図2参照)
単独世帯の割合は、約20年後の2040年には39.3%まで上昇するという推計もあります。単独世帯のかなりの割合が賃貸住宅に住むという傾向が今後も変わらなければ、人口が減り続けている状況下でも、賃貸住宅の需要は堅調に推移すると考えられます。
持ち家志向の低下が支える賃貸需要
都市部を中心に広がる賃貸志向
この数十年、「持ち家住宅率」は低下傾向にあります。2015年の国勢調査では2010年に比べてわずかに上昇しましたが(+0.4%)、それでも62.3%にとどまりました。都市部が低い傾向は定着しており、東京都が47.7%、福岡県53.8%、大阪府56.3%、愛知県60.6%となっています。
国土交通省の「平成30年度土地問題に関する国民の意識調査」によると、「土地・建物を所有したい」と回答した人の割合が74.6%と、4年連続で低下。一方、「賃貸住宅で構わない」と回答した人は17.8%と、4年連続で上昇し、調査開始以来最も高い結果となりました。内閣府の調査(図3参照)では、若年層の所有意欲の低さが目立っています。
「一生賃貸」派に向けた物件供給を考える
国土交通省の調査では、土地が預貯金や株式等に比べて有利な資産と考える人の割合はかつて6割以上でしたが、1998年度以降は3割台で推移。2018年度は32.6%で、有利な資産と思わないと回答した人の割合(39.4%)を下回っています。資産として土地付き一戸建てを購入しようと考える人も減っていると考えられます。
内閣府の調査では、住宅は賃貸で構わないと考える理由として、「多額のローンを抱えたくない」、「家族の状況の変化に合わせて住み替えたい」、「維持・管理のわずらわしさがない」が挙げられています。所有しないがゆえの自由さを重んじ、賃貸住宅を一生のパートナーと考える人が増えているのです。(図4参照)
少人数世帯数増加、賃貸生活の長期化は、今後の賃貸経営を考える上で考慮すべきポイント。今後、どのような賃貸住宅を供給すべきかのヒントがここにあるように思われます。いずれにせよ、世帯数の増加と持ち家志向の低下により、賃貸住宅需要は今後も堅調と言えるでしょう。