高齢化社会の相続対策に有効な家族信託
税制改正大綱が指摘する「老老相続」の問題
2021年度税制改正大綱は、コロナ禍が継続中であることに配慮し、経済対策のための減税を重視した内容となりました。賃貸経営に直接関係する大きな改正はありませんでしたが、相続・贈与関係では、住宅取得資金贈与の非課税限度額引き上げなどの改正がありました。
税制改正大綱では、社会の高齢化が進み、相続の時期が高齢化する「老老相続」について以下のように指摘しています。
「高齢化等に伴い、高齢世代に資産が偏在するとともに、相続による資産の世代間移転の時期がより高齢期にシフトしており、結果として若年世代への資産移転が進みにくい状況にある。
高齢世代が保有する資産がより早いタイミングで若年世代に移転することになれば、その有効活用を通じた、経済の活性化が期待される。このため、資産の再分配機能の確保に留意しつつ、資産の早期の世代間移転を促進するための税制を構築することが重要な課題となっている。」
こうした点を踏まえ、今後は相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税するように検討を進めるという一文も盛り込まれています。
急増している相続税の課税対象者
国税庁の発表によると、令和元年分における被相続人数(死亡者数)は年々増加傾向にあります(図1参照)。
特に2015年開始の相続税制改正で基礎控除の引き下げなどが行われ、相続税の課税対象者の裾野が広がったため、2015年から課税対象者や課税割合が急増し、現在に至っています(図1、図2参照)。
高齢化で高まる認知症のリスク
「人生100年時代」と言われるほど、日本人の平均寿命は延びています。これに伴い、認知症患者の増加という問題もクローズアップされてきました。厚生労働省によると、わが国の認知症高齢者の数は、2025年には約700万人となり、65 歳以上の高齢者の約5人に1人に達すると見込まれています。
国民病とも言える認知症は、相続時にも大きな問題となっています。遺言書の作成ができなかったり、相続した妻が認知症で遺産を活用できなかったりというケースがあるからです。また、相続税の納税資金用に不動産を処分するつもりだったのに、認知症のためにできなくなってしまうということもあり得ます。
成年後見制度に比べ融通がきく家族信託
元気なうちに行える相続対策としては、遺言や生前贈与があります。また、認知症などで判断力が低下した場合の備えとして、成年後見制度や家族信託制度があります(図3参照)。
成年後見制度の場合、家族が自宅不動産の売却などを行うには家庭裁判所の許可が必要ですが、よほどの理由がないと財産の活用は許可されません。一方、信頼する家族(受託者)に財産の管理・運用を託す家族信託は、より融通がききます。
家族信託には「財産分離機能」があり、自分の財産を分けて信託する・しないを選べます。財産ごとに別々の受託者を指定することもできます。また、受託した財産に贈与税がかからないというメリットがあるほか、受託者への報酬は後見人(弁護士や司法書士など)より安くなります。なお受託者への報酬は、受益権とは別に指定することができます。
相続や事業承継などのニーズに応える家族信託制度
家族信託の活用には専門家の知識が必要
家族信託の実際の活用にあたっては、様々な手法やファクターを考慮する必要があります。例えば、預貯金は信託せずに残しておき、口座を年金の受取口座とすることで日常生活の費用をまかない、その部分に関してのみ後見人に任せるといったことも可能です。
このように、家族信託は専門的な知識を駆使することでより良い形で活用できます。当社では、司法書士などの専門家と連携してお手伝いさせていただくことが可能ですので、将来の財産管理について心配な方はお気軽にご相談ください。
家族信託の活用例
兄弟で共同保有している不動産を共有分割したり、売却したりすることなく、自分の子供に相続させることができます。
賃貸マンションを信託財産、兄弟3人(Aさん、Bさん、Cさん)を委託者および受益者、Aさんの長男を受託者とする。
マンションの管理を長男が行い、家賃収入はAさん兄弟に分配される。BさんとCさんは、管理のお礼として受益権をAさんの長男に相続させる旨、遺言書に残す。兄弟全員が死亡した時点で信託は終了し、Aさんの長男は不動産の処遇を自由に決められる。
遺言では2次相続以降を決めることはできませんが、信託では以下のようなことが可能です。
自宅を信託財産とし、Aさんが委託者・受益者、受託者を次男とする。死後は受益権を長男に相続させ、第2受益者を次男に指定。長男の死後、自宅は長男の妻ではなく次男のものとなる。
会社経営を続けながら、認知症などで経営に支障をきたす場合に備えることができます。
信託財産を不動産・預貯金・自社株とし、委託者をAさん、受託者を長男、受益者をAさんとする。自社株が移った長男は議決権を行使できる。一方、委託者であるAさんが議決権の行使についての指図権を持つように信託契約で設定すれば、Aさんも経営に関わることができる。Aさんが認知症になっても、受託者である長男は不動産の処分や金融機関との取引ができるので、会社運営に支障はない。