賃貸マンションの相続税の計算方法は? -節税対策についても解説
1棟の賃貸マンションを相続する際、どのくらいの相続税がかかるかご存知ですか。将来の相続に備えて準備の必要性を感じながらも、相続税の計算方法に対してとっつきにくいイメージを抱いている方も多いのではないでしょうか。この記事では、賃貸マンションの相続税が気になっている方に向け、マンション相続時の基本的な考え方と相続税の具体的な計算方法についてわかりやすくお伝えします。基礎知識が身に付けば、マンションの相続に対する不安はなくなるでしょう。
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この記事の目次
賃貸マンション相続税にかかわる対象と計算の流れ
ここでは、賃貸マンションの相続の対象となる範囲と、具体的な相続税の計算の流れについて解説します。
マンション相続の対象は「建物」と「土地」の2つ
マンションを所有するということは、建物だけでなく、通常その土地も同様に所有しています。賃貸マンションを相続する場合、その対象はマンションの「建物」とマンションが建つ「土地」の2つということになります。よって、実際の相続税の計算においても、建物と土地の2つに分けて計算します。
1棟の賃貸マンションと分譲マンションの区分所有の違い
上記のとおり、1棟の賃貸マンションの相続対象は「建物」と「土地」です。分譲マンションを所有している場合も、この2つが相続対象である点に違いはありません。しかし、分譲マンションは各戸の購入者である区分所有者が単独で所有している「専有部分」と、区分所有者全体で共有している「共有部分」に分かれています。そのため、建物は「専有部分+共有部分についての自己所有分」、土地はマンションの土地全体に対する所有権の割合(持分割合)で分けたものが相続の対象となります。
賃貸マンションを相続する場合の計算の流れ
被相続人が1棟の賃貸マンションを所有していた場合、以下の流れで相続税を計算します。
(1)土地の相続税評価額を算出する
※小規模宅地等の特例の適用が可能な場合は土地の評価額から減額される
(2)建物の相続税評価額を算出する
(3)土地と建物の相続税評価額を足し、賃貸マンションの相続税評価額が出る
(4)現金等のその他の遺産総額と(3)の相続税評価額を足し、相続遺産総額が算出される
(5)(4)の評価額から相続税の基礎控除、および配偶者控除等の特例による控除額を差し引いて、相続税評価額が決まる
(6)相続人の数、実際の振り分けの割合によって、最終的な相続税額が決まる
(5)、(6)に関しては相続人の数や、各種特例が適用可能かなど、実際の相続の状況によります。次章からは、(1)~(3)にあたる賃貸マンションの相続税評価額を算出する方法に重点を置き、具体的に解説していきます。
すべてのマンション相続のケースにおいて、相続税を払うわけではない
相続税は、マンションを相続する際のすべてのケースに発生するというものではありません。相続時、マンションの評価額を含む相続遺産総額が相続税の基礎控除額を下回る場合、相続税を支払う必要はありません。
相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で算出されます。例えば、法定相続人が1名の場合、3,000万円+600万円=3,600万円になります。もし賃貸マンションの相続税評価額と、マンション以外の遺産総額を合わせた相続遺産総額が、3,600万円以下であれば、この相続人は相続税を支払う必要がないのです。仮に法定相続人が1名であり、マンションを含めた相続遺産総額が3億円であった場合では、3億円-3,600万円=2億6,400万円が相続税の対象となる相続税評価額となります。
建物にかかる相続税の評価方法
賃貸マンションの建物部分の相続税評価額は、固定資産税評価額を基準に決定されます。ここからは「建物」に関する相続税の評価方法について具体的に解説します。
賃貸マンションの場合、建物の相続税評価額は以下のような計算式で計算します。
建物の相続税評価額=固定資産税評価額×(1-借家権割合30%×賃貸割合)
固定資産税評価額は、毎年市区町村から送られてくる固定資産税・都市計画税の課税明細書に記載してあります。借家権とは建物の賃借人が建物を利用する権利で、借家権割合は全国一律30%と定められています。また賃貸割合は、賃貸するために提供している面積に対して実際に賃貸されている面積の割合のことで、実際に賃貸されている面積が多いほど賃貸割合は大きくなります。例えば 同じ面積の10室が賃貸用に提供されているマンションの場合、満室では賃貸割合は100%であり、半分が空室なら50%、全室空室の場合は0%となります。
賃貸割合は、後述する土地の相続税評価額を計算する際にも使われる要素です。賃貸割合が高いほど相続税評価額は下がり、結果として最終的に支払うべき相続税が減ることになります。賃貸割合が増すことで評価額が減少する理由には、人に貸すことで自分が自由に使える建物や土地の割合が制限されるので、自由に使えない分を割り引くという考え方が根底にあります。
それでは、具体的な事例で、建物の相続税を計算してみます。
<例>
賃貸マンションの固定資産税評価額:3億円
賃貸状況:20室中10室が賃貸中(各部屋の面積はすべて同じ面積とする)
建物の相続税評価額=3億円×(1-30%×10/20)=2億5,500万円
上記のとおり、この賃貸マンションの建物部分の相続税評価額は2億5,500万円となります。
土地にかかる相続税の評価方法
次に、賃貸マンションの「土地」に関する相続税の評価方法について具体的に解説します。
マンションが建つ土地の相続税の評価を行うためには、まずその土地全体の評価額を出す必要があります。土地の評価方法は「路線価方式」と「倍率方式」の2つがあります。路線価は、道路に面した標準的な宅地1平方メートルあたりの評価額のことで、国税庁が年に一度公表しています。市街地等の路線価が定められている土地には「路線価方式」を、それ以外の土地は、対象となる土地の固定資産税評価額に定められた評価倍率をかけて計算する「倍率方式」を採用して計算します。路線価と評価倍率はいずれも、国税庁のホームページで確認できます。マンションの相続においては、都市部にあることなど立地条件から、倍率方式が当てはまることは少ない傾向にあります。
路線価方式による、土地の相続税評価額の具体的な計算の流れは以下のとおりです。
(1)路線価方式にて賃貸マンションの土地全体の評価額を算出する。
賃貸マンションの土地全体の相続税評価額=路線価×土地面積×各種補正率
路線価とは土地の相続税評価の際に使われる指標で、1平方メートルあたりの土地の評価額が定められています。各種補正率とはL字型や細長型など、土地の形状によってかかる補正率のことです。
(2)上記(1)にて算出された土地の相続税評価額に対して、以下のような計算を行う。
土地の相続税評価額:評価額×(1-借地権割合×借家権割合30%×賃貸割合)
(3)相続対象の賃貸マンションの土地が「小規模宅地等の特例」の一区分である「貸付事業用宅地等に該当する宅地等」にあたる場合、その土地面積200平方メートルまでは50%の減額がされ、最終的な土地の相続税評価額が確定する。
借地権割合は、土地に占める借地権の割合を指します。30~90%で設定されていて、地価が高いほど借地権割合が高くなる傾向があります。路線価の値(単位:1,000円)の後ろにアルファベットとして記載されていて、それぞれ以下の割合に設定されています。
借地権割合A:90% B:80% C:70% D:60% E:50% F:40% G:30%
賃貸割合は、上述の建物の計算方法でも用いたもので、賃貸のために提供している面積に対して、実際に賃貸されている面積の割合のことです。
それでは、具体的な事例をもとに、土地の相続税を路線価方式で計算してみます。
<路線価方式>
路線価:300A(路線価の単位:1,000円)
賃貸マンションの土地面積:200平方メートル
補正率:※簡略化のため省略
賃貸状況:20室中10室が賃貸中(各部屋の面積はすべて同じ面積とする)
土地の評価額:300×1,000円×200平方メートル=6,000万円
土地の相続税評価額:6,000万円×(1-借地権割合A(=90%)×借家権割合30%×賃貸割合10/20)=5,190万円
倍率方式の土地の相続税評価額の計算方法は非常に簡単で、以下の計算式で求められます。
土地の相続税評価額=マンションの土地全体の相続税評価額=固定資産税評価額×評価倍率
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マンション相続時の評価方法
ここまで、1棟の賃貸マンションにおける建物と土地それぞれの相続税評価額の算出方法について解説しました。賃貸マンションの相続税の評価方法は、これらの評価を合わせたものになります。つまり、別々に計算した賃貸マンションの建物部分と土地部分の相続税評価額を足し合わせたものが、マンションの最終的な相続税評価額となるのです。
ここからは、賃貸マンションの事例を挙げて実際に計算してみます。
<例1>
賃貸マンションの土地面積:300平方メートル
部屋数:30部屋(各部屋の面積はすべて同じ面積とする)
賃貸状況:25部屋賃貸中
路線価:1000B (単位:1,000円)
補正値:簡略化のため省略
建物の固定資産税評価額:1億5,000万円
(1)建物の相続税評価額
固定資産税評価額1億5,000万円×(1-借家権割合30%×賃貸割合25/30)=1億1,250万円
(2)土地の相続税評価額(路線価方式)
(土地の評価額:1000×1,000円×300平方メートル=3億円)
土地の評価額3億円×(1-借地権割合B(=80%)×借家権割合30%×賃貸割合25/30)=2億4,000万円
(3)建物の相続税評価額(1)+土地の相続税評価額(2)=3億5,250万円
<例2>
例1と同条件のマンションで、賃貸状況が異なる場合
賃貸状況:30部屋中3部屋賃貸中(各部屋の面積はすべて同じ面積とする)
(1)建物の相続税評価額
固定資産税評価額1億5,000万円×(1-借家権割合30%×賃貸割合3/30)=1億4,550万
(2)土地の相続税評価額(路線価方式)
(土地の評価額:1000×1,000円×300平方メートル=3億円)
土地の評価額3億円×(1-借地権割合B(=80%)×借家権割合30%×賃貸割合3/30)=2億9,280万円
(3)建物の相続税評価額(1)+土地の相続税評価額(2)=4億3,830万円
例1と例2は同じ賃貸マンションに対する相続税評価額の計算であるにもかかわらず、例1の条件下では3億5,250万円であるのに対し、例2では4億3,830万円と、相続税評価額に大きな差が生まれています。このように賃貸マンションにおいては、どのくらいの割合を人に貸しているかが評価に大きく影響していることがわかります。
マンション相続にかかわる節税対策について
賃貸マンションを建てると、相続に有利になる、つまり節税になるといわれています。これは、賃貸マンションなどの不動産を相続する場合、現金などの金融資源による相続に比べると評価額が下がるためです。
具体的な数字で例を挙げると、現金8,000万円を相続する場合、相続税評価額は8,000万円とそのままの価値になります。しかし8,000万円で購入した賃貸マンションを相続する場合はマンションの取得価格ではなく、前述のとおり、固定資産税評価額で評価されるため、現金と比べてマンションの相続税評価額は大きく下がり、結果的に節税につながります。さらにマンション全体の賃貸面積に対して、人に貸している面積の割合が多ければ多いほど、自分が自由に使える空間が少ないとみなされて、相続税評価額は下がります。
このように賃貸マンションでの相続自体が、ひとつの大きな節税対策といえるのです。この視点に立ったうえで、マンション相続にかかわる節税対策について解説していきます。
「小規模宅地等の特例」
小規模宅地等の特例とは、相続対象となる土地における、ある一定限度の面積について、相続税評価額を減額することができる制度で、宅地の性質によって減額の割合が決められています。
「被相続人等の居住の用に供されていた宅地等」、つまり被相続人の配偶者が生活していた住宅などを相続する場合、330平方メートルまでの土地面積に対して相続税評価額が80%減額されます。また「特定事業用等宅地等」、つまり貸付事業以外の事業に使われていた土地の場合は、400平方メートルまでの土地面積に対して、相続税評価額が80%減額されます。
賃貸マンションの相続の場合、「貸付事業用宅地等」に当てはまり、要件を満たせば200平方メートルまで50%の減額が可能となります。適用要件はありますが、賃貸マンションの相続では利用できるケースが多く、高い節税効果が得られます。
小規模宅地等の特例を適用する事例として、1棟の賃貸マンションにおける以下の条件下での相続税評価額を計算してみます。
物件種別:1棟賃貸マンション
マンションの土地面積:200平方メートル
路線価方式による土地の評価額:2億円
借地権割合:70%
借家権割合:30%
賃貸割合:100%(満室)
賃貸マンションの相続税評価額= 土地の評価額2億円×(1-借地権割合70%×借家権割合30%×賃貸割合100%)= 1億5,800万円
次に、小規模宅地等の特例を適用します。前述のとおり、賃貸マンションは小規模宅地等の特例における「貸付事業等宅地等」に分類されるため、土地面積200平方メートルまで50%の減額が可能となります。小規模宅地等の特例による控除額の計算式は以下になります。
小規模宅地等の特例による控除額 =賃貸マンションの相続税評価額×(200平方メートル÷賃貸マンション全体の土地面積)×50%
上記の事例に当てはめると、
賃貸マンションの相続税評価額 1億5,800万円×(200平方メートル÷200平方メートル)×50%=7,900万円
よって、小規模宅地等の特例を適用した場合の相続税評価額は以下のようになります。
小規模宅地等の特例を適用後の相続税評価額
= 土地の相続税評価額1億5,800万円-小規模宅地等の特例による控除額7,900万円
= 7,900万円
このように、200平方メートルまでの土地面積については、土地の相続税評価額を50%と大きく低減させることが可能となります。200平方メートル以上の場合、200平方メートルまでの面積に控除を受ける形になります。仮に賃貸マンションの土地面積が500平方メートルである場合は、以下のような計算になります。
マンションの土地面積:500平方メートル
小規模宅地等の特例による減額 =マンションの土地の相続税評価額2億円×200平方メートル÷賃貸マンション全体の土地面積500平方メートル×50%=4,000万円
よって、小規模宅地等の特例を適用した相続税は以下のようになります。
小規模宅地等の特例を適用後の相続税評価額
=土地の相続税評価額1億5,800万円-小規模宅地等の特例による控除額4,000万円
= 1億1,800万円
当然、200平方メートルの場合と比べると低減の割合は少なくなりますが、それでも相続税評価額から4,000万円の低減という大きな節税効果が得られることがわかります。
小規模宅地等の特例の適用要件に関して注意すべき点としては、不動産の貸付事業の開始時期です。相続開始前の3年以内に事業用として使われ始めた土地については、小規模宅地等の特例対象外となります。つまり、亡くなる直前に購入した賃貸マンションは、小規模宅地等の特例の適用外となります。ただし被相続人が相続開始の3年前よりも以前から貸付事業を営んでいた場合は、3年以内に不動産の貸付を始めた土地についても対象となります。貸付事業を営んでいるといえるかどうかは、その規模で判断されます。おおむね、アパートを5棟、あるいは部屋として10室以上を貸付業として運営しているかどうかが事業規模の基準となります。
生前贈与
贈与とは、ある人が別の誰かに対して無償で財産を与えることで、特に将来の被相続人が誰かに対して自分の財産を贈与することを生前贈与といいます。贈与は子や孫などの親族に限らず、親族以外の人に対して財産を与える行為も含まれます。生前贈与は、将来的な相続税を減らすために有効な節税対策といえます。マンションなど不動産以外の財産を相続人に生前贈与することで、不動産を含む相続遺産総額を減らし、相続発生時の相続税評価額を減らすことができます。結果として相続税を抑える効果が期待できるのです。
贈与税の基礎控除額である年間110万円以下の贈与であれば、贈与税を支払う必要はありません。このように、年間110万円以下の贈与を行うことを、暦年贈与といいます。暦年贈与のポイントは、複数年にわたり繰り返し行うことが可能な点、また仮に息子が3人いた場合、それぞれに対して年間110万円以下の贈与を行うことが可能な点です。しかし、毎年決まった日に贈与するなど定期的な贈与である場合は、贈与税の対象となる可能性があるので注意が必要です。相続発生時に、税務署によってまとまった額の贈与であるという判断がなされた場合、生前贈与として取り扱っていた金額も相続税の対象として計算されてしまう可能性があります。暦年贈与以外の贈与の方法もありますが、複雑な計算になる点と直接的な節税といえないケースもあるため、ここでは割愛いたします。
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