不動産の相続税はいくらかかる?手続きの流れや注意点を解説

財産を相続した場合、相続したものの評価に応じて相続人に課されるのが相続税です。

不動産を相続した際の課税額は、被相続人との関係や利用できる特例制度の有無などによって異なります。制度が煩雑なことから、自分の場合はいくら支払うべきなのかわからない方も少なくありません。

税負担を軽減するだけでなく、トラブルを避けるためにも相続税の概要や手続きの流れについて把握しておくことは大切です。

この記事では、不動産相続時の相続税の概要と手続き、申告方法と控除に利用できる制度などを紹介します。

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不動産の相続手続きのおおまかな流れ

相続税は、被相続人の財産を相続した人に対して、財産の価額に応じて課される税金です。相続財産を残して亡くなった人を被相続人といい、相続で財産を受け取る人を相続人といいます。相続人は原則、法定相続人(法律で定められた相続できる人)でなければなりません。

なお、遺言書によって財産を分与する「遺贈」も、相続と同じく亡くなった人の財産を受け取ることを指します。こちらは、財産を受け取る「受遺者」が、必ずしも法定相続人である必要はない点が異なります。

不動産の相続が発生した場合、次の流れで手続きを行ないます。

1.相続人の確定
2.相続財産の確定
3.遺産分割協議
4.相続登記の申請(不動産の名義変更)
5.相続税の申告と納税

相続税の申告は、被相続人の死亡を知った日の翌日から、10ヵ月以内に完了しなければなりません。

次章より、不動産の相続税を申告する詳細な手順を見てみましょう。

不動産の相続税申告は7つのステップで行なう

不動産の相続税申告は、「相続人の確定」「相続財産の確定」「相続登記の必要書類の収集開始」「遺産分割協議」「相続登記の申請」「相続税申告の必要書類をそろえる」「相続税申告書の作成・提出」の手順で行ないます。

実際にどのような手続きが必要なのか、相続税の申告までの流れを詳しく見ていきましょう。

【step1】相続人の確定

相続を行なうには「誰が遺産を受け取るのか」を確定させなければなりません。相続人を確定させるために「遺言書の確認」と「法定相続人の調査」を行ないます。

遺言書の有無を確認

被相続人が生前遺言書を残している場合、遺言書の内容にのっとって相続を行ないます。場合によっては、法定相続人以外に遺贈を受ける個人・法人の受遺者がいる可能性もあるため、遺言書の有無は必ず確認しましょう。

【遺言書の保管場所(一例)】

被相続人や親族の自宅 自宅の引き出しや金庫のなかなど。相続人の一人に預けていることもある。
銀行の貸金庫 取引銀行に問い合わせてみる。
公証役場 遺言が公正証書遺言として公証役場に預けられていることがある。 各公証役場をとおし、公証役場遺言検索システムで調査できる。
法務局 自筆証書遺言書保管制度を利用すると、遺言書を法務局に預けることができる。
遺言書保管事実証明書を請求することで保管の有無を問い合わせられる。

遺言書が自宅や金融機関などで個人保管されていたときは、発見したからといって勝手に開封してはいけません。遺言書は改ざん防止のため裁判所による検認が必要です。遺言書の検認は民法で定められており、違反すると5万円以下の過料を科されます。

ただし、公正証書遺言か法務局の保管制度を利用している場合、遺言書の正確性は担保されているため、裁判所の検認は必要ありません。

法定相続人の調査・確定

遺言書が見つからなかった場合は、誰が相続人になるのかを自分で調べる必要があります。確実なのは、被相続人の戸籍謄本や除籍謄本を取り寄せ、相続人をリストアップすることです。親や兄弟姉妹などの親族をすべて把握します。

ただし、親族であればだれでも相続人になるわけではありません。というのも、各相続人には、被相続人との関係性に応じて相続の優先順位が設定されているからです。第1順位の人がいない場合は第2順位の人が相続し、次に第3順位の人、と相続の権利が移っていきます。

被相続人に配偶者がいる場合は、どのような場合も常に相続人となり、配偶者以外は第1順位から以下のように定められています。

第1順位 被相続人の子ども。もしくは代襲相続人(※)となる孫・ひ孫。
孫とひ孫が両方いるときは孫を優先する。
第2順位 被相続人の直系尊属(父母または祖父母など)。
両親と祖父母がともに健在の場合は父母を優先する。
第3順位 被相続人の兄弟姉妹。
もしくは代襲相続人となるその子ども。

※代襲相続人……本来相続人となるべき人物が他界しており、その子など代わりに相続人となる人のこと

なお、内縁の妻や夫は相続における配偶者に含まれません。

【step2】相続財産の確定

誰が相続するのか明らかになったら、次は「何を相続できるのか」を確定させなければなりません。財産の内訳によっては相続放棄する相続人が出る可能性もあるため、こちらも不足のないよう把握しておきましょう。

相続財産には、不動産のほか預貯金や有価証券、自動車などの動産に加え、金銭債権などの法律上の権利も含まれます。また、これらプラスの財産だけでなく、マイナスの財産であるローンなどの債務(借金)も相続財産です。

相続税の対象となる財産の金額は以下の式で求められます。

プラスの財産-(マイナスの財産+葬儀費用)

マイナスの財産が多いケースなど、相続をしたくないときは「相続の開始を知ったときから3ヵ月以内」に手続きをすれば相続放棄が可能です。

【step3】相続登記の必要書類を収集開始

相続登記の申請には、被相続人と相続人の関係を証明する書類など、いくつか添付書類が必要となります。準備に時間がかかることもあるため、早めに収集を開始しておきましょう。

【相続登記の申請に必要な書類(一例)】
●被相続人の戸籍(出生から死亡まで連続しているもの)
●被相続人の住民票の除票、または戸籍の附票
●相続人の戸籍謄本
●不動産のあらたな所有者の住民票
●固定資産評価証明書
●遺産分割協議書(必要に応じて)
●印鑑証明書(必要に応じて)

※必要書類は状況に応じて異なります。

【step4】遺産分割協議

相続人と相続財産が確定したら、必要に応じて遺産分割協議(遺産配分の話し合い)を行ないます。有効な遺言書がある場合はそちらの内容が優先されるため、通常遺産分割協議は必要ありません。ただし、相続人全員が遺言書の内容に納得できないときは、あらためて協議による遺産の分割が可能です。

話し合いがまとまったら、その内容を記した遺産分割協議書を作成します。相続登記の際など、相続の内容を公に証明するために必要なため、必ず書面で残すようにしましょう。

遺産分割協議の内容は、相続人全員の同意と署名捺印があって初めて有効となるため、多数決で結果を決めることはできません。どうしても話し合いでまとまらない場合は、裁判所で遺産分割調停を申し立てることも可能です。

【step5】相続登記の申請

不動産を誰が相続するか決まったら、被相続人の名義から相続人の名義に変更するため相続登記の申請をしましょう。

相続登記の手続きは司法書士など専門家に依頼することが一般的ですが、自分でも手続きは可能です。ただし、相続税の申告期限が迫っているときや、不動産を共有名義にするときなど手続きが複雑な場合は、専門家に依頼することをおすすめします。

相続登記の申請手続きには、次の書類が必要です。

【相続登記の申請に必要な書類(一例)】
●被相続人の戸籍謄本(出生から死亡まで連続しているもの)
●被相続人の戸籍の附票
●相続人の戸籍謄本
●不動産のあらたな所有者の住民票
●固定資産評価証明書
●遺産分割協議書(必要に応じて)
●印鑑証明書(必要に応じて)

※必要書類は状況に応じて異なります。

各書類の取得には手数料が1,000円から1万円程度かかるほか、司法書士に手続きを依頼するときは別途報酬が必要です。

【step6】相続税申告の必要書類をそろえる

相続税の申告に必要な書類を用意します。相続人全員分必要な書類もあるため、相続の準備を進めながら少しずつ集めておきましょう。

【相続税申告時に必要な本人確認書類(一例)】
マイナンバー確認のための以下のいずれかの書類
●個人番号カードの写し(裏面)
●通知カードの写し
●マイナンバーが記載された住民票の写し

身元確認のための以下のいずれかの書類
●マイナンバーカードの写し(表面)
●運転免許証の写し
●身体障害者手帳の写し
●パスポートの写し
●在留カードの写し
●保険証の写し

【相続税の申告書に添付する書類(一例)】
相続人一覧を示すための以下のいずれかの書類(原本またはコピー)
●相続人全員が記載された戸籍謄本(相続開始から10日経過以降に作成されたもの)
●図形式の法定相続情報一覧図の写し(養子がいる場合は養子の戸籍謄本か戸籍抄本も添付)

相続の発生を証明する以下の書類
●遺言書の写しまたは遺産分割協議書の写し
●相続人全員の印鑑証明書(遺産分割協議書に捺印しているもの)

【step7】相続税申告書の作成・提出

相続税申告書を作成し、前述の書類を添付して提出します。相続税申告書は税務署の窓口で配布しているほか、国税庁のWebサイトからPDFデータをダウンロードできます。

相続税申告書は第1表から第15表まで書式が用意されています。被相続人の死亡年度によって使用する申告書が異なるため、過去のものを使用せず、最新版を入手してください。

相続税申告書が作成できたら、税務署に提出します。なお、提出先はどこでも良いわけではなく「被相続人の住所を管轄している税務署」に提出しなければなりません。

遠隔地に居住しており、窓口での提出が難しい場合などは郵送でも提出が可能です。念のため、配達の記録が残る簡易書留や特定記録付き郵便を利用すると安心です。

不動産の相続税を算出する方法

実際に不動産などの財産を相続する場合、相続税はどのように計算するのでしょうか。相続税算出の流れを紹介します。

相続人ごとの課税価格を算出

まず、相続人ごとに課税価格を算出します。課税価格とは「相続財産のうち相続税の課税対象となる財産の価格」のことです。

相続財産には、次のように相続税がかかるものとかからないものがあるため、課税対象のものだけで計算する必要があります。

【相続税の課税対象となる財産(一例)】
●不動産
●現金や預貯金
●金銭債権や著作権など法律上の権利

【相続税の課税対象とならない財産(一例)】
●墓地や墓石や仏具など
●申告期限内に国や自治体などに寄付した財産
●慈善や学術など公益のために使う財産

不動産の課税価格は、土地か建物かで基礎となる価格が異なります。建物は固定資産税評価額を使用し、土地は路線価をもとにした「路線価方式」か、固定資産税評価額に所定の倍率を乗じた「倍率方式」を使用して計算します。

関連ページ:土地にかかる相続税とは?土地評価額や相続税評価額の計算方法も解説 相続する土地の税金・税率を知り、対策を行おう

借入金や葬儀費用を引く

相続財産には、借入金などマイナスの財産も含まれますが、こちらは課税価格から差し引けます。例えば、金融機関からのローンや葬儀費用などが代表的です。

ただし、生前に購入した墓地の代金などは含まれません。墓地は相続税の課税対象ではないため、債務として課税価格から差し引けない点に注意してください。

なお、住宅ローンなどは団体信用生命保険に同時加入することが一般的で、死亡の時点で債務が消滅していることも多いです。金融機関に忘れずに連絡しましょう。

基礎控除額を引く

相続人ごとの課税価格が確定したら、相続人全員の課税価格を合計し、そこから基礎控除分を引きます。算出された価格が、課税対象の遺産の総額です。

【課税遺産総額の計算】
相続人全員の課税価格の合計-基礎控除=課税遺産総額

【相続税の基礎控除額】
3,000万円+600万円×法定相続人数

仮に、課税価格の合計が2億円で、法定相続人が3人の場合、計算は次のとおりです。

2億円-(3,000万円+600万円×3)=1億5,200万円

課税価格の合計が基礎控除以下の金額であれば、相続税はかかりません。原則申告の必要もありませんが、後述する税制優遇の特例のいくつかは、申告しなければ適用されないため注意が必要です。

相続税の総額を算出

課税遺産総額が判明したら、次に相続税の総額を算出します。相続税の総額は、次の流れで計算します。

1.課税遺産総額を法定相続分の割合に応じて分割
2. 1人あたりの相続税額を算出
3.各相続人の相続税額を合計

仮に、課税遺産総額が3億円で、妻と長男、次男の3名で相続するケースを考えてみましょう。

【1. 課税遺産総額を法定相続分の割合に応じて分割】
配偶者と子ども2名の場合、法定相続分は「配偶者50%」「子ども1人につき25%」となります。今回、課税遺産総額は3億円のため、それぞれの取得金額は以下のとおりです。

妻:1億5,000万円
長男:7,500万円
次男:7,500万円

【2.1人あたりの相続税額を算出】
先ほどの1人あたりの取得金額に対して相続税率の速算表の税率をかけ、金額に応じた控除額を引いて相続税額を算出します。令和3年4月1日時点での「相続税の速算表」に照らし合わせると、各相続人の税額は以下のとおりです。

妻:1億5,000万円×40%-1,700万円=4,300万円
長男:7,500万円×30%-700万円=1,550万円
次男:7,500万円×30%-700万円=1,550万円

なお、相続税率は課税価格が多くなるほど高くなります。

【3.各相続人の相続税額を合計】
前述の相続税額を合計します。

4,300万円+1,550万円+1,550万円=7,400万円

このケースでは、相続税の総額は7,400万円となります。

相続人ごとの相続税額を算出

計算した相続税の総額を、相続人の課税価格に応じ、次の計算で分配します。

相続税の総額×各相続人の課税価格÷課税価格の合計額=各相続人等の税額

先ほどの例で、課税総額3億円でそれぞれの課税価格が「妻:1億5,000万円」「長男:7,500万円」「次男7,500万円」だと仮定すると、各相続人の相続税額は次のとおりです。

妻:7,400万円×1億5,000万円÷3億円=3,700万円
長男:7,400万円×7,500万円÷3億円=1,850万円
次男:7,400万円×7,500万円÷3億円=1,850万円

なお、実際の納税額は、この方法で算出した金額に、各種税額控除を適用して計算します。税額控除や特例については、次で紹介します。

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不動産の相続と売却で使える控除・特例制度

不動産の相続と売却では、相続財産と売却益に対して税金が発生します。ただし、節税に活用できる控除や特例の制度がいくつか用意されているため、うまく活用することで負担を軽減できます。

不動産の相続で使える控除・特例

不動産の相続で利用できる控除・特例は、「贈与税額控除」「配偶者税額軽減」「未成年者税額控除」「相次相続控除」「障害者控除」「小規模宅地等の特例」の6つです。
それぞれ詳しく見ていきましょう。

贈与税額控除

贈与税額控除は、生前贈与を受けたあとに相続が発生した場合に利用できる控除です。生前贈与から3年以内に相続が発生した場合、贈与を受けた際に支払った贈与税を、相続税から控除できます。

これは、相続発生前3年間に受け取った贈与財産は、相続税計算時の課税価格に含まれるため、二重課税を防ぐために作られた仕組みです。被相続人が積極的に節税を行なっている場合などは、相続人のなかに贈与を受けた人がいないか確認しましょう。

なお、贈与財産のうち、相続税の対象として加算されないものもあります。例えば、住宅取得等資金として贈与された資金のうち、非課税の適用を受けた贈与額などは、相続税の課税対象には含まれません。

・配偶者税額軽減

被相続人の配偶者は、相続税額から大きく控除を受けられます。以下のいずれか大きいほうの金額が上限です。

【配偶者税額控除の上限】
●1億6,000万円
●法定相続分相当額

なお、内縁関係(事実婚)の夫や妻は、配偶者税額軽減の対象とはなりません。

未成年者税額控除

相続人が20歳未満の未成年の場合、相続税額から控除を受けられます。控除の金額は以下のとおりです。

【未成年者税額控除の計算】
満20歳までの年数×10万円(1年未満の期間は切り上げて1年として計算)

例えば、相続人が14歳6ヵ月の場合、満15歳から満20歳までの5年と、14歳6ヵ月から15歳までの半年を1年とした、合計6年分、60万円を相続税額から控除できることになります。

なお、控除額が相続税額より大きい場合、使いきれなかった控除分は、相続人の扶養義務者の相続税に適用できます。

相次相続控除

相続が開始する前10年以内に、被相続人が相続や遺贈で財産を取得していた場合、相次相続控除の適用を受け、今回の相続の相続税を軽減できることがあります。

例えば、父が亡くなり、その相続が発生する8年前に、祖父の相続で父が相続財産を取得していたケースなどが代表例です。

相次相続控除の適用を受けるには、以下の条件をすべて満たさなければなりません。

【相次相続控除の適用条件】
●過去10年以内に開始した相続で被相続人が相続で財産を取得している
●過去10年以内に開始した相続で被相続人が相続税を支払っている
●控除を受けようとする人が相続人である(相続放棄や相続権欠格で権利を失っている場合は対象外)

相次相続控除の控除額の計算方法は次のとおりです。

【相次相続控除の計算方法】
被相続人が以前支払った相続税額×(今回の相続の全員分の課税総額
÷被相続人が以前の相続で取得した課税価格-被相続人が以前支払った相続税額)
×(相次相続控除の適用を受ける相続人の課税価格÷今回の相続の全員分の課税総額)
×(10-前の相続から今回の相続までの期間)÷10

障害者控除

相続人が障害者である場合、相続税額から一定額の控除を受けることができます。

【障害者控除を受けられる条件】
●日本国内に居住していること
●相続で財産を取得した際に障害者であること
●法定相続人であること

控除額は、一般障害者か特別障害者(障害の等級が重い人、寝たきりの人など)かで、次のように異なります。

【特別障害者の場合の控除額計算】
満85歳になるまでの年数×20万円(満60歳の人であれば25年×20万円)

【一般障害者の場合の控除額計算】
満85歳になるまでの年数×10万円(満60歳の人であれば25年×10万円)

いずれの場合も、1年に満たない期間は切り上げて1年として計算します。

小規模宅地等の特例

小規模宅地等の特例とは、被相続人が住んでいた自宅や、被相続人または被相続人の同居親族が事業に使用していた不動産を相続する場合、一定の面積までの評価額を減額するものです。最大で80%減額でき、大きな節税になります。

小規模宅地等の特例の対象となる宅地は次の3種類です。
●被相続人または同一生計の親族の事業に使用していた宅地等
●被相続人が役員を担っていた法人に貸し出されていた宅地等
●被相続人または同一生計の親族が居住していた宅地等

関連ページ:土地の相続税が軽減される「小規模宅地等の特例」の節税対策とは?|80パーセントの節税のチャンス!?

不動産の売却で使える特例

不動産の売却で出た利益は通常課税対象ですが、税の負担を抑えるための特例として「3,000万円特別控除の特例」「取得費加算の特例」が用意されています。場合によっては、両方の特例制度を併用することも可能です。

それぞれの適用条件などについて詳しく解説します。

3,000万円特別控除の特例

3,000万円特別控除の特例とは、相続によって取得した被相続人の住居やその土地を売却して利益が出た場合に、3,000万円まで所得控除を受けられる特例です。相続で取得し居住していた物件を売るときのほか、空き家を相続して売却したときにも利用できます。

なお、相続した空き家を譲渡した場合の特例の適用期間は、平成28年4月1日から令和5年12月31日までになります。

【相続した空き家を売却した際の3,000万円特別控除】

対象となる物件の条件 ● 昭和56年5月31日以前に建築されたこと
● 区分所有建物登記がされていない建物であること
● 相続開始の直前に被相続人以外の居住者がいなかったこと
特例の適用条件 ● 相続によって取得した住居を売却すること
● 所定の耐震性能を満たしていること
● 相続開始から3年目の年内までに売却すること
● 売却代金が1億円以下であること
● 売却した物件に他の特例を適用していないこと
● 同じ被相続人から相続した他の物件にこの特例を適用していないこと
● 親子や夫婦など特別の相手への売却ではないこと

【自己居住用財産(マイホーム)を譲渡した場合の3,000万円特別控除】

対象となる物件の条件 居住用財産であること
(仮住まいや別荘への適用は不可)
特例の適用条件 ● 自身が住んでいる家屋とともに土地や借地権を売ること
● 過去に住んでいた家の場合は3年目の年内に売ること
● 売った年の前年・前々年にこの特例またはマイホームの譲渡損失についての損益通算や繰越控除の特例の適用を受けていないこと
● 売った年と前年・前々年に交換および買換えの特例を受けていないこと
● 売った家屋や土地について収用等の特別控除など他の特例の適用を受けていないこと
● 災害で家屋が滅失した場合は3年目の年内までに敷地を売ること
● 夫婦間や親子間など特別な間での売却でないこと

取得費加算の特例

相続した不動産を売却したとき、支払った相続税額のうち一部を、譲渡所得計算時の取得費として加算できます。

不動産売却時の譲渡所得は、所得税と住民税の課税対象ですが、申告の際に物件の購入などにかかった費用を取得費として控除できます。取得費加算の特例を使うと、相続税の分だけ計算上の譲渡所得が減少するため、支払う税額を抑えることが可能です。

【取得費加算の特例の条件】
●相続によって取得した財産であること
●取得した相続人に相続税が課されていること
●相続開始から3年10ヵ月以内に売却すること

【取得費加算の特例で加算できる相続税額の計算】
相続税額×相続税計算の基礎とした不動産の評価価格÷(課税価格+債務控除額)

特例制度を併用できるケース 

先に紹介した各種特例は、併用できるものとできないものがあります。

【併用できる組み合わせ】
●「取得費加算の特例」と「マイホームを売却した際の3,000万円特別控除」
●「相続空き家を売却した際の3,000万円特別控除」と「マイホームを売却した際の3,000万円特別控除」(※)
※同じ年内に併用する場合の控除額は2つの特例の合計で3,000万円

【併用できない組み合わせ】
「取得費加算の特例」と「相続空き家を売却した際の3,000万円特別控除」

不動産の相続で注意すべき4つのポイント

不動産の相続は人生に何度も発生することは稀なため、不慣れな方も少なくありません。ここからは不動産の相続発生時に注意すべきポイントについて紹介します。
特に注意したいのは、「申告・納付には期限がある」「無申告や過少申告には加算税がかかる」「相続税の2割加算」「代償分割への課税」の4つです。

以下より順番に見ていきましょう。

申告・納付には期限がある

先ほど少し触れましたが、相続税の申告と納付には期限があります。「被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヵ月以内」がタイムリミットのため、この日までに申告・納付を完了しなければなりません。

ただし、「遺産分割協議がまとまらず調停中である」など、遺産分割が完了していない場合は、相続税の仮の金額を納税します。「申告期限後3年以内の分割見込書」を申告書とともに提出し納税を行なったあと、遺産分割が完了しだい修正申告を行なう流れです。

無申告や過少申告には加算税がかかる

相続税の申告義務があるにも関わらず無申告のままでいた場合や、税額を少なく申告した場合には、加算税が発生します。加算税は延滞税とは別に発生し、税率は申告したタイミングや税額に応じて、次のように変化します。

【無申告加算税の税率】

税務調査の通知以前に自主的に申告 5%
税務調査後に申告 50万円以下の部分:15% 50万円超の部分:20%

【過少申告加算税の税率】

自主的に修正申告した場合 なし
税務調査後に修正申告した場合 通常10%
当初の申告額と50万円のどちらか大きいほうの金額を超える部分:15%

その他、意図的な相続税の隠蔽など悪質な脱税行為が認められた場合は35%または40%の重加算税が課されることもあります。

相続税の2割加算

相続人と被相続人の関係性によって、通常の相続税額に2割加算されることがあります。2割加算の対象となるのは、配偶者と一親等の血族以外が相続人となるケースです。

【2割加算の加算金額の計算方法】
各相続人の税額控除前の相続税額×20%

仮に加算前の相続税額が100万円だとすると、加算後の税額は120万円になる計算です。具体的に、2割加算される相続人は以下のとおりです。

【2割加算の対象となる相続人】
●祖父母
●孫
●甥や姪
●兄弟姉妹
●内縁の妻や夫

【2割加算されない相続人】
●配偶者
●子ども
●養子
●父母

養子は通常実子と同じく2割加算の対象になりませんが、孫を養子にした場合は加算されます。ただし、孫養子でも親が亡くなったことによる代襲相続の場合、相続税は加算されません。

代償分割への課税

代償分割とは、遺産の分割で1人または数人の相続人が遺産を現物で取得し、取得した人が他の相続人に債務を負うことで分配を行なう遺産分割の方法です。

例えば、実家の土地建物以外に特に財産がない場合に、長男が実家を相続し、他の相続人である次男に金銭を支払うといったケースが考えられます。

代償分割を行なった場合、各相続人の課税価格は以下のように計算できます。

【代償財産(おもに金銭)を交付した人】
相続により現物で取得した財産の相続税評価額-交付した代償財産の金額

【代償財産の交付を受けた人】
相続により現物で取得した財産の相続税評価額(※)+交付を受けた代償財産の金額

※上記の例の場合、次男は今回の相続により現物で取得した財産がないため評価額は0円

代償分割時の取得費加算の特例

取得費加算の特例とは、相続により取得した財産を3年10ヵ月以内に譲渡した場合、譲渡益から支払った相続税の一部を取得費として加算し、控除額を増やせる制度です。

代償分割により、代償金を支払って取得した不動産の売却では、通常とは異なる計算方法が適用されます。これにより加算できる相続税額が通常より減少します。

結果的に、課税対象の譲渡所得が増加し税負担が増す可能性があるため、この点も見越したうえで代償分割の可否を検討しましょう。

まとめ

不動産の相続では、課税価格を正しく算出し、適切に納税することが大切です。相続税に関しては多くの控除や特例が用意されています。自分に合った制度を利用することで、納税の負担を軽減できるため検討してみてください。

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1971年(昭和46年)4月16日
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