不動産の贈与税の計算方法 | 税率や贈与時の注意点についても解説
親や祖父母から不動産を譲り受ける場合、相続か贈与かで、支払う税金に大きな差が生まれてきます。基本的には相続税率よりも贈与税率のほうが高いため、一見して相続のほうが得なのではと考える方もいるかもしれませんが、実は「生前贈与」をうまく行うことによって、相続税の節税対策が可能です。
贈与を行う場合、最も適した課税方式を選択し、なるべく税負担を軽減しながら手続きを行うことが大切です。
ここでは、不動産の贈与税の計算方法や税率、贈与時の注意点などについて解説します。
この記事の目次
贈与税とは?
そもそも贈与とは、贈与者(与える側)が生存している段階で、受贈者(もらう側)へ譲渡することをお互いに合意することで成立します。贈与税は、贈与が成立した際に課される税金のことで、不動産購入資金の贈与を受けたときをはじめ、土地や建物などの不動産、自動車などの資産を無償で譲り受けた場合などに課税されます。
贈与税の課税方法には、暦年課税と相続時精算課税があり、ある一定の要件を満たす場合に相続時精算課税の選択が可能です。
贈与税の申告や納税はいつまでにやらないといけない?
贈与税の課税対象者は、毎年1月1日から12月31日までの1年間に受けた贈与財産の合計額に対し、翌年2月1日から3月15日までの期間に贈与税の申告および納税を行う義務が発生します。忘れないように必ず行いましょう。
贈与税はだれが行うの?どうやって行う?
贈与税の申告は、不動産などの財産を贈られた受贈者が行います。申告手続きは税理士に依頼することも可能です。申告は、贈与を受けた課税対象者の住所地を管轄する税務署に対して行います。
贈与税の申告方法は以下の3つです。
・税務署に持参して直接申告する。
・郵送で申告する。
・国税電子申告・納税システム(e-Tax)で申告する。
不動産の贈与税の計算方法
不動産評価額を求める
評価額とは、固定資産税や不動産取得税の計算に使われる固定資産税評価額又は相続税評価額のことです。固定資産税評価額は各自治体が個別に決定するもので、土地や家屋などの評価基準を定義した固定資産評価基準に基づき、東京23区の各区および各市町村の自治体担当者が、ひとつずつ確認して決めています。相続税評価額は国税庁が毎年7月1日に公表しています。なお、この評価額は、固定資産税評価額の場合3年ごとに、相続税評価額(路線価)の場合は1年ごとに評価替えが行われます。
不動産の贈与税の計算には評価額が必要です。評価額は、不動産の相続税評価額、または固定資産税評価額が贈与を受けた額になり、土地の相続税評価額は路線価方式もしくは倍率方式で算出、建物の場合は固定資産税評価額から算出されます。
税率を求める
贈与税の税率には「一般贈与財産」と「特別贈与財産」の2種類あります。
【一般贈与財産の税率】
一般贈与財産とは、未成年の子への贈与や、夫婦間、兄弟姉妹間での贈与などを指し、特別贈与財産以外は一般贈与財産となります。
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
〜200万円以下 | 10% | なし |
200万円超~300万円以下 | 15% | 10万円 |
300万円超~400万円以下 | 20% | 25万円 |
500万円超~600万円以下 | 30% | 65万円 |
600万円超~1000万円以下 | 40% | 125万円 |
1000万円超~1500万円以下 | 45% | 175万円 |
1500万円超~3000万円以下 | 50% | 250万円 |
3000万円超~ | 55% | 400万円 |
【特例贈与財産の税率】
特別贈与財産とは、父母などの直系尊属から18歳以上の子・孫など直系卑属に贈与される場合の財産を言います。
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
〜200万円以下 | 10% | なし |
200万円超~400万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円超~600万円以下 | 20% | 30万円 |
600万円超~1000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,000万円超~1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
1,500万円超~3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
3,000万円超~4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超~ | 55% | 640万円 |
暦年課税制度とは
暦年課税制度とは、1月から12月までの1年間に受けた贈与に対して適用される課税制度のことを言います。贈与者・受贈者の制限はなく、誰でも利用できます。また、贈与財産の種類にも制限はなく、不動産をはじめ、現金や預貯金、有価証券など、あらゆる財産の贈与が暦年課税の対象です。
暦年課税には、受贈者側に対し年間110万円の基礎控除があります。不動産を贈与されると贈与税が課税されますが、贈与税は課税価格からこの基礎控除額を差し引いた金額に課税されます。贈与税の計算は原則的に暦年課税制度ですが、後述の相続時精算課税を選択した場合は暦年課税の対象にはなりません。
一般贈与財産と特例贈与財産の違い
特例贈与財産とは、2015年以降に贈与を受けた年の1月1日時点で20歳以上の直系卑属(子供や孫)に対して贈与された財産のことです。特例贈与財産に課税される贈与税額は、特例税率を適用して計算します。
一方、特例贈与財産に該当しない贈与財産を一般贈与財産として定義しています。一般贈与財産に課税される贈与税額は、一般税率を用いて計算します。
特例税率は一般税率よりも低く設定されているので、特例贈与財産に該当する場合は贈与税が安くなるメリットがあります。
贈与以外の場合に贈与税がかかる場合について
贈与税は、個人から財産を贈与された際に課税される税金ですが、一見贈与に見えない場合でもでも贈与税がかかる場合があります。
例えば、債務を免除されるなど、実質的に財産を贈与された状態と変わらない場合に課税されるケースです。仮に債務者に1,000万円の借金があるとして、その借金を免除された場合、元債務者は1,000万円を贈与されたと同じとみなされ贈与税が課されます。なお、債務免除などにより利益を受けたときでも、債務者が資力を喪失し債務の弁済が難しい状況にある場合には、贈与取得とはみなされないこともポイントです。
また、生命保険の保険金の受け取った際には、被保険者・保険料負担者・保険金受取人がすべて異なる場合にも同じように贈与税が課されます。例えば、父親が加入する生命保険の保険料を、母親が負担し、その保険金の受取人が子になっていたとします。被保険者である父親が亡くなり、子がその生命保険金を受け取った場合、保険料負担者である母親からの贈与を受けたとみなされ、贈与税が課せられるのです。
このほか、贈与が親子だけでなく他人が含まれる場合などにも贈与税がかかることもあります。
このように、主に個人から財産を譲り受けた場合でなくとも、債務免除や保険金受取など贈与を受けたのと同じとみなされるケースがあります。
次に、以下の5つのケースで贈与税の発生の有無を見ていきましょう。
時価相場よりも著しく安い金額で不動産を購入した場合
不動産を時価相場より著しく安い価格で購入した場合、贈与税が発生します。これは一見すると通常の売買ですが、贈与と同じような経済的利益を受け取ることになるため、「贈与」とみなされ、贈与税が発生します。これを「みなし贈与」と言い、特に親子間でこのような売買が行われることも多いため、注意しましょう。
不動産購入の借金を免除してもらった場合
不動産購入の借金を免除してもらった場合、債務免除に該当し、本来返済するべき価額分について債務者が利益を得ることになり、債務免除者から贈与取得したものとみなされ、贈与税が課されます。ただし債務超過の状態に陥るなどをして、今後返済の見込みがない場合には、贈与税は免除されます。
不動産取得において共有名義(負担割合と異なる割合で持分登記)をしたとき
不動産を取得する際に共有名義にする場合、共有するお互いの持分割合は「不動産購入のために支出した資金の割合」で決定します。そのため、負担割合とは異なる、支出した金額以上の割合で持分登記をすると、贈与とみなされる場合があります。
対価を支払わず不動産の名義を変更した場合
新たに不動産を取得すると、所有者となった人の名義を登録する際に登録免許税という税金が課されます。不動産名義を変更した場合に必ずかかってくる税金で、この税金の内訳として不動産価格の20/1000が贈与税で課税されます。
親が他人から借地している土地の底地部分を子供が買い取った場合
親が他人から借地している土地の底地(所有権)を子供が地主から買い取った場合、親子間で地代の授受が行われないときは、子供が土地を買い取った際に、借地権者となっている親から子供に贈与がなされたとみなされます。ただし、子供が土地の所有者となった後も、借地権者は親である子を示す「借地権者の地位に変更がない旨の申出書」を、子供の住所地の所轄税務署長に提出した場合には、贈与として取り扱わないことが定められています。
不動産の贈与税を非課税にするための特例について
不動産の贈与税が非課税になる制度の仕組みや条件などについて解説します。
住宅取得等資金の非課税制度
住宅取得等資金の非課税制度とは、2015年から2021年までの期間中、親や祖父母などから受けた贈与を資金に住宅を取得するなどした際に、法律で定めた非課税限度額まで贈与額を非課税にする特例のことです。非課税限度額は、住宅の種類(省エネ等の基準に適合した住宅か否か)、契約の締結日(贈与契約の締結日ではなく、住宅建築の請負契約等の締結日)、消費税率によって変わってきます。
・非課税限度額一覧
住宅建築の請負等契約締結日 | 省エネ等住宅 | 左記以外の住宅 |
---|---|---|
2019年4月1日~2020年3月31日 | 3,000万円 | 2,500万円 |
2020年4月1日~2021年3月31日 | 1,500万円 | 1,000万円 |
2021年4月1日~2021年12月31日 | 1,200万円 | 700万円 |
参考:No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税|国税庁
・住宅取得等資金の非課税制度の対象となる受贈者とは
住宅取得等資金の非課税制度の対象となる受贈者の要件は以下の通りです。
・贈与を受けたとき、贈与者の直系卑属(子供や孫)であること。
・贈与を受けた年の1月1日に20歳以上であること。
・贈与を受けた年のその年分の所得税に関する合計所得金額が2,000万円以下であること。
・2009年分から2014年分までの贈与税の申告において、住宅取得等資金の非課税の適用を受けたことがないこと。
・配偶者や親族などの一定の関係がある人から住宅用家屋として取得したものではないこと、または、一定の関係がある人から請負契約などにより新築や増改築などをしたものではないこと。
・贈与を受けた年の翌年3月15日までに住宅取得等資金の全額を充てて住宅用家屋の新築などを行うこと。
・贈与を受けた時点で日本国内に住所を有していること。
・贈与を受けた年の翌年3月15日までにその家屋に居住すること、もしくは同日後、遅滞なくその家屋に居住することが確実であると見込まれること。
以上の要件すべてを満たす受贈者が対象となります。
なお、これらの要件の中には、但し書きなどがある要件もあるため、住宅取得等資金の非課税制度の受贈者に当てはまっているかどうかは、国税庁、または、専門家に相談するようにしましょう。
参考:No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税|国税庁
おしどり贈与(配偶者控除)
婚姻期間が20年以上の配偶者から、一定の要件を満たした居住用不動産の贈与を受けた場合、または居住用不動産取得のための資金贈与を受け、それを用いて取得した居住用不動産を有している場合、おしどり贈与と呼ばれ、贈与税の配偶者控除が適用されます。その年分の贈与税に関わる課税価格から最大2,000万円が控除される制度です。
贈与税の配偶者控除が適用できる居住用不動産は、居住を目的として用いられる土地、あるいは土地の上に存する権利または家屋であり、国内のものを指します。加えて、贈与が発生した年の翌年3月15日までに該当する居住用不動産を居住用とし、なおかつ、その後も引き続き住む見込みであることが要件として定義されています。
相続時精算課税制度を利用した贈与もある
贈与を行う際、原則的には暦年課税制度を利用します。ただし、暦年課税制度ではなく、条件によっては相続時精算課税制度という課税方式を利用することも可能です。
相続時精算課税制度とは
相続時精算課税制度とは、60歳以上の父母や祖父母から20歳以上の子供や孫へ贈与する際に利用することができる制度です。相続時精算課税制度を選択した場合、以降の贈与について、合計2,500万円の贈与まで贈与税が課税されない仕組みになっています。
ただし、これは相続発生時にこの制度によって贈与した財産を相続財産に追加して相続税を計算する必要があるため、贈与税の支払いを相続発生時に先送りしているとも言えます。
相続時精算課税制度のメリット
前項で触れた通り、2,500万円まで贈与税が控除されるのが相続時精算課税制度のメリットです。贈与時点の財産価格が課税対象となります。
相続時精算課税制度を利用した贈与額の合計が2,500万円を超えた場合、超えた部分に一律20%の贈与税が課されること、相続時に贈与額合計が相続財産に加算され相続税が課税されることがポイントです。なお、2,500万円を超えた贈与税を支払っている場合、相続税から支払った贈与税額を引くことができます。
相続時精算課税制度のデメリット
相続時精算課税制度を選択して贈与を行った場合、以降の贈与はすべて相続時精算課税制度での贈与となるため、暦年贈与に戻すことはできません。暦年贈与の場合、年間贈与額が110万円以下であれば課税がされませんが、相続時精算課税制度は年間贈与額が110万円以下であっても、相続時に相続財産に加算され、相続税が課されます。
また、小規模宅地等の特例が受けられなくなることもデメリットと言えるでしょう。小規模宅地等の特例とは、被相続人と一緒に住んでいた土地などの一定の要件が満たされている場合、土地の相続税評価額を最大80%まで減額することができる制度です。ところが、相続時精算課税制度を利用して土地を贈与すると、その土地に対する小規模宅地等の特例は適用することができません。
このように、相続時精算課税制度を利用できる条件が揃っている場合でも、まずは暦年課税制度との比較や、相続時精算課税制度のメリット・デメリットを検討し、課税方式の選択をするようにしましょう。
不動産の贈与時にかかる贈与税以外の税金について
不動産に贈与時には、贈与税以外の税金として不動産取得税・登録免許税・譲渡所得税がそれぞれ発生します。どのような税金なのか、ひとつずつ見ていきましょう。
不動産取得税
不動産取得税とは、土地や建物など不動産を購入した際に課税される税金のことです。地方税に該当するため、納税先は都道府県になるので、都道府県の税事務所で納税の手続きを行います。
不動産取得税の税額は、課税標準額×税率で計算されます。課税標準額とは法律で定められた不動産価格のことですが、実際には売買時の時価ではなく、原則として固定資産税評価額が用いられます。評価額は時価よりも低いのが一般的なので、建物の場合は建築費のおおよそ5~6割程度、土地の場合は時価のおおよそ7割程度が目安です。
税率は原則的に4%と定められていますが、土地と住宅については軽減措置として2021年3月31日の取得まで3%に引き下げられていることがポイントです。また、宅地や宅地と同じ扱いを受ける土地については、同じく2021年3月31日まで評価額の2分の1が課税標準額になっています。
登録免許税
登録免許税とは、不動産の購入時に行う登記手続きの際にかかる税金です。税額は土地や建物の固定資産税評価額に税率をかけて計算します。ただし、新築のため、まだ建物に固定資産税評価額が付けられていない場合、法務局の認定価格が課税標準額となり、そこに税率をかけることになります。
税率は登記の種類により異なっており、土地の所有権移転登記は原則2.0%、建物(住宅用家屋)の新築時の所有権保存登記は原則0.4%、中古住宅などの所有権移転登記は原則2.0%と定められています。
なお、金融機関が不動産に抵当権を設定する場合、登記が必要となるため、住宅ローンの借入れの際にも登録免許税が課税されることが特徴です。この場合にかかる登録免許税は、住宅ローン(債権金額)に0.4%の税率をかけて計算されます。
譲渡所得税
譲渡所得税とは、所有している不動産を売却して得た利益の譲渡所得に対し課税される所得税や住民税を総称したものです。課税分の内、不動産の譲渡所得にかかる所得税と住民税は分離課税となり、給与所得や事業所得など他所得とは別に計算されます。
譲渡所得は、売却を行った際の不動産売却価格だけではなく、不動産を売却するまでにかかった不動産購入価格や費用、売却時にかかった費用を、売却価格から差し引いたものです。以下の通りに計算します。
譲渡所得=収入金額-取得費-譲渡費用
子や孫、親族へ大切な不動産資産を引き継ぐためにも贈与を理解し上手に活用することが大切
大切な不動産資産を子や孫などへ引き継ぐ際には、財産を相続する方法と贈与する方法があります。相続税対策の一環として生前贈与がありますが、相続税率より贈与税率のほうが高くなるため、贈与制度を上手に活用しないと、かえってお金がかかってしまう場合もあります。そのため、不動産資産を相続した場合と贈与した場合の両方を比較・検討することが大切であり、税理士への相談が重要になります。
生和コーポレーションでは、税理士とも提携しているため、贈与に関するあらゆるご案内をトータルで行うことができます。大切な不動産資産を上手に相続するためにも、まずはお気軽にご相談・お問い合わせください。