売却の譲渡所得税とは? しくみや特例について解説!
所有している不動産を譲渡したときに利益を得た場合、その利益を譲渡所得といいます。譲渡所得に対しては所得税・住民税(2037年の所得までは復興特別所得税も加算)が課せられます。
一般的に不動産にかかる税金は高額になりますが、不動産の譲渡所得にはさまざまな特例も設けられているため、条件にあてはまれば税金が減免されることもあります。今回は、不動産の譲渡所得の基本的なしくみや特例についてご紹介します。
なお、譲渡には売買だけではなく、贈与や交換など、有償無償を問わず所有権を移転させる一切の行為が含まれますが、今回は譲渡のうち最も多く行われている売却にしぼって解説をします。
この記事の目次
譲渡所得の計算方法
さまざまな所得の計算の原則は「収入-経費」です。そのなかで譲渡所得の経費は、取得費と譲渡費用の合計です。よって譲渡所得は次の計算式で算出します。
譲渡所得=収入-(取得費+譲渡費用)
「収入」とは、売却金額のことを指します。
「取得費」とは、売却した不動産を取得したときにかかった金額のことで、具体的には購入代金、建築費用、購入時の諸費用、購入後の設備費や改良費の合計額を指します。ただし建物や設備などについては、売却時までの減価償却費(資産の価値が年数の経過に伴い目減りする部分)を差し引きます。
また、親から相続した不動産を売却する場合の取得費は、原則として親の取得費を引き継ぎます。ただし購入当時の契約書などを紛失してしまった場合や、先祖代々相続してきた不動産の場合には取得費が分かりません。そのため、取得費が不明の場合には売却金額の5%を「概算取得費」とします。
「譲渡費用」とは、譲渡時にかかった諸費用のことで、仲介手数料、解体費用、立退費用、測量費用、印紙代などの合計額となります。
譲渡所得の税率は所有期間によって異なる
譲渡所得が分かれば、譲渡所得に譲渡所得税の税率をかければ譲渡所得の税額が計算できます。
譲渡所得の税額=譲渡所得×税率
譲渡所得の税額を計算する際の税率は、売却する不動産の所有期間によって大きな差があります。
所有期間が5年以下の譲渡を「短期譲渡」といい、税率は39.63%(所得税30%+住民税9%+復興特別所得税0.63%)になります。
それに対し、所有期間が5年を超える譲渡を「長期譲渡」といい、税率は20.315%(所得税15%+住民税5%+復興特別所得税0.315%)と、短期譲渡に比べて大幅に低くなります。
これは短期間に土地売買を繰り返して利益を得るという、いわゆる「土地ころがし」のような行為には高額の税金をかけるべきという趣旨からきています。
なお、復興所得税は、東日本大震災の復興事業の財源確保を目的に創設され、2037年まで所得税率の2.1%が加算されます。(例:短期所得の場合…所得税率30%×2.1%=0.63%)
短期譲渡か長期譲渡かの所有期間の判定については、売却日を起算とするのではなく、売却日の属する年の1月1日時点での所有期間とするので注意が必要です。万が一、起算日を間違えて計算してしまうと、長期譲渡と思っていたのに実は短期譲渡で多額の税金をかけられてしまったということになりかねません。
また、相続した不動産を売却した場合、その不動産の取得日は被相続人が取得した日を引き継ぎます。例えば、父から相続した不動産を相続日から3年後に売却しても、その不動産を父が取得したのが相続日の4年前だった、ということであれば、所有期間は5年超と判定され、長期譲渡となります。
譲渡所得にかかる税金の計算方法は?
譲渡所得の税金は、譲渡所得に税率をかけて計算します。
それでは、例を用いて具体的に譲渡所得にかかる税金を計算してみましょう。
〔例1〕物件Aを以下の条件で売却した場合
① 所有期間:7年
② 売却金額:3億円
③ 購入金額:2億円
④ 購入時の諸費用:1,000万円
⑤ 減価償却費:2,500万円(※ 建物・設備・構築物等の価値が年数の経過に伴い目減りする部分)
⑥ 譲渡費用:1,500万円
〔計算〕
譲渡所得=②3億円-{(③2億円+④1,000万円-⑤2,500万円)+⑥1,500万円}=1億円
所有期間から長期譲渡になるため
税額=1億円×20.315%=20,315,000円
この売却が、もしも短期譲渡所得であった場合の税金は、
税額=1億円×39.63%=39,630,000円
長期譲渡と比べて、大変高額な税金になってしまいます。
そのため、所有不動産を売却する際には、所有期間を確認して行うことも大切です。
譲渡所得でよく誤解されるのは、購入金額よりも安く売却した場合は損をしたので税金はかからないのではと考えられる点です。このようなケースでも、次の例のように、税務申告上は利益(譲渡所得)があり税金を納めなければならない場合があります。
〔例2〕物件Bを次の条件で売却した場合
①売却金額:2億円
②購入金額:2億500万円
③購入時の諸費用:800万円
④減価償却費:2,200万円
⑤譲渡費用:700万円
〔計算〕
譲渡所得=①2億円-{(②2億500万円+③800万円-④2,200万円)+⑤700万円}=200万円
例2では、2億500万円で購入した物件を2億円で売却したのだから、500万円損をしているので税金はかからないだろうと考えるかもしれませんが、計算の結果200万円の利益(譲渡所得)が生じているので税金はかかります。これは経年による建物などの価値の目減り分を、減価償却費として差し引かなければいけないというルールがあるためです。
なお、実際の計算方法は、土地と建物を分けて、それぞれの譲渡所得を計算してから損益通算して課税譲渡所得を算出します。
譲渡所得の特例がある!
マイホームにはたくさんの特例がある
一般的に、不動産の譲渡所得には高額な税金が課せられますが、自宅やその敷地などの、居住用財産の譲渡(=マイホームの売却)の場合には、5つの特例が設けられています。そのうち3つの特例はマイホームを売却して利益が生じた場合、2つの特例は損失があった場合に適用されます。つまり、マイホームの売却に関しては、得をしても損をしても、手厚い特例が用意されています。
特例の適用が受けられれば譲渡所得にかかる税金が軽減されたり、損失の一部を税金から取り戻したりすることができます。マイホームは国民の生活の基盤であり、社会政策、経済政策上の観点から税金を抑える必要があるからです。
それでは、これからマイホームの売却に関する5つの特例について解説をします。
なお、次の5つの特例のうち(3)~(5)については2019年12月31日までの譲渡について適用されるものであり、2020年1月17日現在、特例を延長する法案が国会提出中のため、実際の適用の可否については財務省のHPなどで確認してください。
(1)マイホームの3,000万円特別控除
マイホームの売却をして譲渡益があった場合、その譲渡益から特別控除として最高3,000万円を差し引くことができます。それにより譲渡益が3,000万円以下であれば税金はゼロになります。
この控除を受けるための所有期間についての条件はありません。ただし、配偶者、直系血族、生計を1つにする親族への譲渡する場合には特例は認められず、譲渡する年・前年・前々年にこの特例を受けたことがある場合にも非適用となります。
なお、この特例は「(2)マイホームの譲渡の軽減税率」と併用して受けることができますが、住宅ローン控除や、その他の譲渡所得の特例とは併用ができないため、選択適用となります。
参照:国税庁「No.3302 マイホームを売ったときの特例」
(2)マイホームの譲渡の軽減税率
所有期間が10年を超えるマイホームを売却した場合は、譲渡所得が6,000万円までの部分については軽減税率を適用することができ、長期譲渡所得の税率よりもさらに低い軽減税率14.21%(所得税10%+住民税4%+復興特別所得税0.21%)となります。
この場合、通常は(1)の3,000万円控除後の譲渡所得に軽減税率を適用するので、実際には譲渡益が3,000万円超9,000万円以下の部分が軽減税率となり、9,000万円を超える部分については通常の長期譲渡所得の税率20.315%となります。
参照:国税庁「No.3305 マイホームを売ったときの軽減税率の特例」
(3)マイホームの買換え特例
譲渡した年の1月1日においてマイホームの所有期間が10年を超えていて、かつ、一定の要件に該当する場合は、買換え特例の適用を受けることができます。
この特例の適用を受ける場合の譲渡所得の計算は次のとおりです。
・売却価額≦購入価額のとき…譲渡がなかったものとされ、譲渡所得はゼロ
・売却価額>購入価額のとき…差額部分についてのみ譲渡があったものとされ、課税対象となる
なお、この特例は、将来買換えたマイホームを譲渡したときまで譲渡所得に対する課税が繰り延べられるもので、非課税となるわけではありませんのでご注意ください。
参照:国税庁「No.3355 特定のマイホームを買い換えたときの特例」
(4)マイホームを買換えた際の損失の繰越控除
(1)~(3)の3つは、マイホームを売却して利益(譲渡所得)があった場合の特例ですが、マイホームを売却して損失が生じることもあります。このような場合にも、少しでも損失の痛みを軽減しようとするために2つの特例があります。
その1つが、マイホームを買い換えた際の損失の繰越控除です。
この特例は、購入時よりも値下がりしてしまったマイホームを売却して買換えをした場合に、一定の要件を満たしているときには、損失額をほかの所得と損益通算することができ、引ききれなかった損失額は翌年以降も3年間繰越して控除することができるというものです。
一定の要件とは、売却するマイホームの所有期間が譲渡年の1月1日時点で5年以上、買換え先のマイホームで10年以上の住宅ローンの残債があることなどです。
参照:国税庁「No.3370 マイホームを買換えた場合に譲渡損失が生じたとき(マイホームを買換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例)」
(5)マイホームの譲渡損失の繰越控除
買換えをしなくても、住宅ローンが残っているマイホームを売却して損失があったときには、損失額をほかの所得と損益通算することができ、引ききれなかった損失額は翌年以降も3年間繰越して控除することができます。ただし、対象となる金額は、売却の契約日の前日時点での住宅ローンの残高とマイホームの売却金額の差額が限度となります。
この特例を受けるためのほかの条件は、次のとおりです。
・譲渡契約締結日の前日において、10年以上の住宅ローンの残高があること
・繰越控除の適用を受ける年分の合計所得金額が3,000万円以下
参照:国税庁「No.3390 住宅ローンが残っているマイホームを売却して譲渡損失が生じたとき(特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例)」
(6)マイホームの売却以外にも使える特例が(空き家の3,000万円特別控除)
マイホームの売却の特例以外にも、知っておきたい特例があります。
それが、空き家の譲渡所得の特例です。
相続した空き家を売却する場合、相続日から3年を経過する日が属する年の年末まで、かつ2023年12月31日までに売却をすると、譲渡所得から特別控除として最高3,000万円を控除できます。
この場合、次の要件を満たす必要があります。
・相続開始直前において被相続人が居住していたこと。ただし被相続人が要介護認定を受け、相続開始の直前まで老人ホーム等に入居していた場合も適用の対象となります。
・相続開始直前において、被相続人以外に居住していた人がいなかったこと
・昭和56年5月31日までに建築された建物
・相続時から譲渡時まで、事業、貸付、居住用に使用されていなかったこと
・譲渡金額が1億円以下
・建物付きで売却する場合は現行の耐震基準に適合する建物
・空き家を解体して更地で売却する場合、解体した建物が要件を満たしていたこと
この特例は、マイホームの3,000万円控除と同額の控除が受けられるため、相続した実家を売却した際の税金の負担軽減が期待できます。
空き家の増加が社会問題になっている昨今、この特例の活用が増えれば、中古住宅の流通が活性化し、空き家対策の一助にもなると期待されています。
参照:国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」
譲渡所得の申告方法は?
不動産を売却したときの譲渡所得は、翌年の2月16日から3月15日までに住所地を管轄する税務署に提出します。なお、マイホームを売却して損失が発生したために所得税の還付申告を行う場合は、2月15日より前に申告することができます。
申告の際には、申告書A、Bのうち、「申告書B第一表、第二表」「申告書第三表(分離課税用)」を使用します。
また、特例の適用を受ける場合については、特例の内容によりそれぞれ提出する書類が異なり、細かく規定されています。
記載方法や提出書類については、税務署や国税庁のホームページにある「譲渡所得の申告のしかた(記載例)」をご覧いただくか、お近くの税務署や税理士にお尋ねください。
申告書の作成にあたっては、国税庁のホームページ内にある「確定申告書作成コーナー」を利用すると、必要な申告内容に応じて書類の入力画面が表示され、計算も自動で行われるので大変便利です。 なお、確定申告書を提出する場合には、マイナンバーを記載することと、マイナンバーカードの提示または写しの添付が必要になります。マイナンバーを取得していない方は、番号確認書類(通知カードまたは住民票の写しでマイナンバーの記載があるもの)の提示も認められています。
譲渡所得の特例を知って賢く節税
今回は、譲渡所得の特徴として、長期と短期で税率が異なること、マイホームの売却にあたり5つの特例、そして空き家の譲渡の特例についてご紹介をしました。
その他にも不動産の譲渡に関しては、さまざまな場面に応じて、多くの特例が設けられています。
ほかの主な特例としては、次のようなものがあります。
・相続税の取得費への加算の特例
・収用等により不動産を売却したときの5,000万円特別控除
・収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税繰延べ
・特定土地区画整理事業等のために土地等を売却した場合の2,000万円特別控除
・特定住宅地造成事業等のために土地等を売却した場合の1,500万円特別控除
・農地保有の合理化等のために土地等を売却した場合の800万円特別控除
・固定資産税の交換の特例による課税繰延べ
・既成市街地等内にある土地等の、中高層耐火建築物等の建設のための買換え、及び交換の特例(立体買換えの特例)による課税繰延べ
出典:
国税庁「No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」
国税庁「No.3552 収用等により土地建物を売ったときの特例」
不動産を譲渡する際には、どのような特例が受けられるのか、複数の特例を併用することはできるのか、また複数の特例から選択適用する場合はどの特例を選択すると有利か、などを知っておくことは大切です。
これらの、不動産の譲渡の特例を上手に選択し、賢く活用するようにしましょう。
また、特例を使う以外にも譲渡所得の申告にあたって気をつけておきたいポイントがあります。
・売却物件の購入時の契約書や建築請負契約書は保管しておく
譲渡所得は、売却価格と取得費に大きく影響されます。そのときに売却した物件の購入金額や建築費が分かっていれば取得費は計算できますが、契約書を紛失してしまった場合などは取得費が証明できません。
その場合、取得費は、「概算取得費」として、売却価格の5%とみなされてしまいます。そのため、たとえ購入価格が売却価格より高かったはずと記憶していても、申告上は大きな所得となってしまい税金が課せられることになります。
・大きな設備の入れ替えや大規模修繕費用は、取得費に加算できる
不動産を購入した後に、キッチンやユニットバスなどの設備を交換したり、外壁塗装や屋根のふき替えなど大規模な修繕費がかかった場合には取得費として経費にすることができます。
実際には、支払った工事費から経年に伴う減価償却部分を差し引いた金額を控除することになります。
売却の際にはこれらの工事費も忘れずに計算するようにしましょう。