無償譲渡とは?土地や不動産を無償譲渡で受けるときのメリットや注意点について解説
近年の日本では、人口減少に伴う空き家をはじめ、好景気に購入したものの利用されていない別荘やリゾートマンション、投資目的で購入した買い手のつかない不動産など、活用されない土地や建物の増加が問題となっています。今後も増え続けると考えられる空き家を有効活用しようと、国による法整備も進められているところです。最近では、空き家の持ち主が、土地や建物を求めている人々に向けて不動産の無償譲渡をする流れもでてきました。田舎暮らしを始めたい人や、地方に土地や建物を所有したい人にとっては、空き家になっている土地や建物を無償で得られることになります。
しかし、無償譲渡を受ける際には、譲渡を受けたことに対してかかる税金をはじめ、のちに発生する課題や、無償譲渡の契約内容など、注意すべき点もいくつか存在します。
ここでは、不動産の無償譲渡とはどういうものかといった基本的な事項や、不動産が無償譲渡される背景の解説をはじめ、無償譲渡を受けることのメリットや注意点について解説します。
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この記事の目次
不動産の無償譲渡とは?
そもそも、無償譲渡とはどういう意味なのでしょうか。また、どのような不動産が無償譲渡の対象物件として扱われているでしょうか。基本的な事項を確認しておきましょう。
無償譲渡とはなにか
無償譲渡とは、特定の物を無償(無料、タダ)で誰かに譲り渡すことです。空き家の例でいえば、使用していない空き家や空き地などの不動産を、それを希望する人へ無料で譲り渡すことが無償譲渡にあたります。
通常、不動産等を譲渡する場合は、対価として代金を支払うのが一般的ですが、無償譲渡では、対価が0円となります。法律的には、このような行為は「譲渡」ではなく「贈与」と呼ばれます。
不動産の無償譲渡で注意すべきなのは、無償譲渡を行う場合、条件によっては、不動産を譲り渡す側にも税金が課せられるケースがあることです。
無償譲渡には、(1)個人が個人に譲渡する場合、(2)個人が法人に譲渡する場合、(3)法人が個人に譲渡する場合、(4)法人が法人へ譲渡する場合があり、このうちどのケースにあたるかによって税金のかかり方が異なります。
(1)個人が個人に無償譲渡する場合
譲渡する側には税金が発生しませんが、譲渡を受ける側に贈与税が発生する場合があります。
(2)個人が法人に無償譲渡する場合
譲渡する側(個人)はその不動産を時価で譲渡したものとみなされます。実際に無償で譲渡をしたとしても、税法上は一定の対価を受け取ったものとみなされ、「みなし譲渡所得課税」として所得税が課せられます。そして、譲渡を受ける側(法人)は不動産を受け取ったことで利益があったとみなされるので、法人税を支払わなければいけません。
(3)法人が個人に無償譲渡する場合
譲渡する側(法人)には、たとえ対価を受け取らなくても税務上は利益があったとみなされて法人税が課せられます。譲渡を受ける側(個人)には、一時所得があったとみなされて所得税がかかります。
(4)法人が法人に無償譲渡する場合
譲渡する側(法人)にも譲渡を受ける側(法人)にも法人税が発生します。
このように、無償譲渡では譲渡をする側と受ける側の関係性によって課せられる税金が異なるのです。したがって無償譲渡を行う際には、不動産と税金の両方に詳しい専門家にあらかじめ相談して確認しておくことをおすすめします。
どのような物件で無償譲渡が発生しているのか
では、具体的にどのような物件が無償譲渡の対象となっているのでしょうか。ここでは無償譲渡が行われる代表的な6つの物件の例をご紹介します。
利用されずに経済的負担のみが発生する物件
空き家には人が住んでいないとはいえ、固定資産税や修繕費などの費用が継続的に発生するものです。建物や土地をうまく活用できなければ、持ち主にとっては費用負担だけを延々と続けることになってしまいます。このような経済的負担を減らすために、建物や土地が無償譲渡されることがあります。
立地が悪く活用が難しい物件
空き家の立地が良いのであれば、駐車場やマンション・アパートなどにして収益を得ることもできますが、立地が悪い空き家も少なくありません。活用が難しいと判断される物件は、無償譲渡の対象とされる場合があります。
トラブル・犯罪につながる可能性のある物件
使わない建物や土地を空き家や空き地にして放置してしまうと、管理不足によって悪臭などが発生し、近隣住民とのトラブルが起きることがあります。また最悪の場合、犯罪に利用されるなどの可能性も捨てきれません。このようなトラブルを未然に防ぐためにも、空き家や空き地が無償譲渡されることがあります。
老朽化が進行している物件
空き家の老朽化が進むと、その空き家を活用しようとなった際に、多額の修繕費用がかかってしまう可能性が高く、多額の費用をかけてまで自分で所有・活用するのは難しいという理由で無償譲渡を選ぶ人もいます。
遠隔地にある物件
不動産の持ち主が、空き家や空き地のある場所とは遠くに住んでいる場合にも、メンテナンスが困難であるため、無償譲渡が行われることがあります。
「特定空家等」に指定されそうな物件
適切に管理されていない空き家などについて、その状態を是正するための措置を定めた、空き家対策特別措置法が2014年に制定されました。この空き家対策特別措置法により、以下のうち1つ以上の項目にあてはまるような空き家である場合、「特定空家」の指定を受けることになります。
1.そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
2.そのまま放置すれば衛生上有害となるおそれのある状態
3.適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態
4.その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態
参照:空家等対策の推進に関する特別措置法|電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ
所有している空き家が特定空家に指定されると、建物やその付随物の適正な管理が求められるため、修繕費用などが発生します。最悪の場合、強制的に解体させられ、その解体費用まで持ち主が負担しなければならない可能性もあります。また、所有している空き家が特定空家の指定を受けると、固定資産税の優遇措置が撤廃され、住宅用地の種類によっては最大で6倍の固定資産税が発生してしまいます。
特定空家に指定される可能性のある物件は、法の適用による修繕費用や固定資産税の発生を回避するために無償譲渡されることがあります。
空き家等の活用されていない不動産が無償譲渡される背景・要因とは?
不動産の無償譲渡が盛んになった要因には、空き家の増加があります。そもそも、近年の日本ではどうして空き家が増加しているのでしょうか。昨今、土地や不動産の無償譲渡が盛んになっていることの背景や要因について解説します。
人口減少・少子高齢化・所有者の高齢化により空き家が増えている
日本における住宅の総戸数は上昇し続けています。しかし、今後の人口減少によって、不動産の供給過多の発生が危惧されています。住む人の数が少なくなれば、空き家が発生するのは自然なことでしょう。
また、不動産の所有者が高齢化していることも空き家の発生要因のひとつです。高齢となった所有者が持ち家である自宅を離れ、子供と同居を始めたり、老人ホームなどに転居したりすることで、もとの自宅が空き家となるのです。
このような理由から、日本では空き家が続々と発生しています。そして、こうした空き家を手放そうとして、無償譲渡が行われているのです。
都市部に雇用が集中していることにより空き家が増えている
日本全体を見ると、人口減少は特に地方で顕著です。都市部に雇用が集中しているために、地方から都市部へと人口が流出しているのです。
したがって地方では、都市部よりもいっそう空き家の割合が多くなっており、無償譲渡のニーズもその分増しています。
個人所有の不動産の場合は特に空き家にせざるを得ない理由がある
個人が所有する不動産は、さまざまな理由で空き家になりやすいといわれています。
まず、その建物に想い入れがあるため、空き家になっても解体しない人がいます。また、経済的な問題もあります。建物の解体費用が発生しますし、更地にすると、空き家がある状態に比べて固定資産税が多くかかるのです。さらに、古い空き家の場合、一度取り壊してしまうと法律上再び建物を建てることができない「再建築不可」のケースも存在します。
税金対策として空き家を手放したい
空き家は、ただ所有しているだけで固定資産税や都市計画税の対象となります。さらに先述のとおり、「特定空家」に指定されると、場合によってはさらに固定資産税が上がってしまいます。だからといって更地にすると、やはり固定資産税や都市計画税が上がってしまうのです。
このような税金の支払いを抑えるために、空き家の無償譲渡を行う人も増えています。
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無償譲渡を受けるメリット
空き家や空き地をはじめとする不動産を無償譲渡してもらうことには、複数のメリットが存在します。ここでは、無償譲渡を受ける側が享受できるメリットをご紹介します。
無料で家や土地・不動産を入手することができる
通常、土地や建物などの不動産は、売買によって購入します。そして、その購入代金は高額になることがほとんどでしょう。しかし、無償譲渡を受けることで、土地や建物などの不動産を0円で入手することができます。浮いた資金をリフォームや改修などに充てて、自分好みの物件に仕上げることも可能です。
田舎暮らしを割安で実現することができる
働き方やライフスタイルの多様化などにより、田舎暮らしにあこがれる方や、実際に田舎暮らしを考えている方も多く存在します。先ほども述べたとおり、地方では空き家の増加が顕著です。無償譲渡により、田舎で余っている空き家や空き地を0円で取得できれば、一般的な手段で不動産を購入するのと比較して割安で田舎暮らしを実現できます。
民泊や宿泊施設として経営することもできる
2018年に、「住宅宿泊事業法(民泊新法)」が施行されました。その結果、一定の条件を満たせば住宅をそのまま宿泊施設として利用して、民泊事業を行うことが可能になりました。空き家として余っている不動産の無償譲渡を受けることで、民泊ビジネスにも挑戦することができます。ただし、営業を始める際には、民泊新法に基づく届出をはじめ、特区民泊としての認定、もしくは旅館業法に基づく許可などが必要となるので注意しましょう。
自治体によって空き家の取得・改修・除去に対して補助金がでることもある
自治体によっては、空き家の取得にかかる費用をはじめ、リフォームや改修にかかる費用、建物の除去にかかる費用に対して、補助金が支給されるところもあります。空き家の無償譲渡を受けた上で自治体の補助金制度を活用することで、不動産の取得・改修・除去などにかかる費用負担を減らし、低コストで不動産を活用することができます。
補助金の有無や内容、受給のための条件は自治体によって異なるため、補助金の活用を検討している場合は、あらかじめ各自治体の制度を調べておきましょう。
無償譲渡を受けるときのデメリット・注意点とは?
空き家をはじめ、土地や建物などの無償譲渡を受けることには複数のメリットがあります。しかし、実際に無償譲渡を受ける際には、そのリスクや注意点についてもしっかりと理解しておくことが重要です。ここでは、無償譲渡を受ける前に確認しておきたいリスクと注意点について解説します。
交通の便が悪く空き家での生活や事業展開がしづらい可能性もある
建物が空き家になっている理由は複数存在しますが、その理由のひとつに、交通の便が悪いため買い手が見つからない、というものがあります。空き家になっている物件の無償譲渡を受けても、自分が住む上で利便性に乏しかったり、事業を行う上で集客が難しかったりする可能性もあります。そのため、空き家をうまく活用できず、かえって損をしてしまうリスクもあります。無償譲渡を受ける際には、その不動産の活用法や利便性などを慎重に考慮しましょう。
無償譲渡にかかる手続きが煩雑
有償で不動産を売買する場合、ほとんどのケースで不動産仲介業者が間に入るため、売買条件の交渉をはじめ、売買契約締結から引き渡しに至るまで、専門家のサポートを受けられます。
しかし、空き家の無償譲渡では、不動産仲介業者が間に入らないのが一般的です。そうなると、建物・土地の調査や所有者との交渉、贈与契約書の作成や登記に必要な書類の準備など、手続き全般を自分で行うことになります。不明な点は、役所や税務署などに自ら出向いて相談・確認しなくてはなりません。分野ごとに専門家に依頼するという手段もありますが、その度に費用がかかります。
このような手続きの煩雑さや費用の発生が、無償譲渡のデメリットのひとつです。
不動産の無償譲渡を受けた側に税金がかかってくる
不動産の無償譲渡では、譲渡を受けた側に各種税金が課せられる場合があるので注意が必要です。
空き家の無償譲渡を受けた場合、土地・家屋両方の贈与を受けたことになります。1年間にもらった財産の合計額が、贈与税の基礎控除額である110万円を超えた場合には、贈与税が発生します。併せて、たとえ空き家であっても不動産を取得したことには変わりないので、不動産取得税が発生する場合もあります。
また、空き家を譲り受ける場合には、所有権移転登記が必要となりますが、このときに登録免許税がかかります。空き家を譲り受けた後には、固定資産税が毎年かかります。地域によっては都市計画税も毎年かかってきます。
このように、不動産そのものを0円で取得できるからといって、まったくコストがかからないとは限りません。不動産の無償譲渡を受ける際には、無償譲渡によって課せられる税金について事前に把握しておきましょう。
リフォーム・改修が必要な場合もある
空き家は、人が住み続けている建物よりも傷んでいることがあります。大幅に老朽化が進んでいる場合、建物を活用するためにはリフォーム・改修が必須になるかもしれません。
0円で不動産を取得できたとしても、実際にそれを活用するまでに、修繕費用がかかる可能性があります。諸費用をあらかじめ見積もっておくことが重要です。
解体費用・廃棄物の撤去費用が発生する場合もある
あまりにも空き家が傷んでいる場合には、建物の解体・撤去が必要になることもあります。その場合、解体費用が発生します。さらに、建物の解体に伴って廃棄物の撤去も必要になるため、解体費用とは別に撤去費用が発生する場合もあります。また、建物の解体・撤去を行ったあと、建物の建て替えを行うとなれば、新しい建物の建築費用も発生してきます。
空き家の無償譲渡を受ける際には、建物の状態を事前に確認しておくことが大切です。解体・撤去をはじめ、建物の建て替えが必要であれば、これらにかかる費用の発生も見越しておきましょう。
契約トラブルに注意する
不動産の無償譲渡を受ける際に、書面による契約締結を怠ると、思わぬトラブルが生じることがあります。例えば、譲渡後になって、過去に事故や事件があった土地であることがわかった場合や、建物に水漏れの発生や給排水管の故障があった場合など、不動産に欠陥・不具合が認められた際には、契約書が残っていれば問題を解決しやすくなります。法的には、口頭での約束も契約として成立しますが、トラブル時に「言った」「言わない」の水掛け論にならないためにも、不動産贈与契約を書面で締結しておくことが大切です。
無償譲渡をする側も、無償譲渡を受ける側も、先を見据えて検討することが大切
不動産の無償譲渡をする側においては、空き家をはじめとした活用していない不動産を所有している場合、それを無償譲渡することで、税金を抑えられるなどのメリットが得られます。空き家を売却したくても買い手が見つからない場合には、無償譲渡という選択肢を検討するのも良いでしょう。
しかし、不動産という資産の売却利益を得ることができないのは、無償譲渡の大きなデメリットです。土地活用の方法を見出すことで、土地や不動産の無償譲渡を避けられる可能性もあります。空き家の無償譲渡を検討する場合には、メリット・デメリットの両面を考慮することが大切です。
一方、不動産の無償譲渡を受ける側にとっては、無料で土地や建物などの不動産を手に入れられるのが大きなメリットです。しかし、不動産の無償譲渡を受ける際には、各種税金の支払いや、不動産を活用するためのリフォーム・改修や解体などの費用が発生することも考えられます。また基本的に、契約条件の交渉や贈与契約、不動産登記などの各種手続きをすべて自分で行わなくてはなりません。そういった手続きは煩雑で、難易度も高いものです。不動産の無償譲渡を受けたいと考えている場合には、契約や登記などに関する知識を深めて準備を行い、税金や各種費用の支払い計画をきちんと立てた上で、相手とのやり取りを進めることが大切です。
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