建物の減価償却費の計算方法・計算に必要な耐用年数等について解説
建物を事業のために建築した際には、建物の減価償却費を、個人・法人の事業の経費として計上することができ、所得税・法人税などの税金の計算に影響を及ぼします。これからマンション経営をしようとしている人の中には、減価償却について不明点が多いという方もいるのではないでしょうか。ここでは、建物の減価償却費の概要や計算方法をはじめ、計算に必要となる耐用年数などの用語の紹介や注意点などをまとめました。
この記事の目次
建物減価償却費とは?
不動産における減価償却は、建物減価償却費として計上します。まずはその考え方を覚えておきましょう。
減価償却とはどのようなものか
減価償却とは、減価償却資産を取得し、その取得に際してかかった費用(建設費や購入金額)を、種類ごとに定められた年数に分けて経費計上するための計算方法をさします。
減価償却資産とは、事業者などが事業用に使用することを目的に取得し、時間が経つにつれて価値を失っていく固定資産のことで、購入金額が10万円以上と定められています。建物、車、機械、備品、ソフトウェアなどが代表的な減価償却資産です。
関連ページ:減価償却とは?メリットはあるの?わかりやすく解説!
建物減価償却の考え方
不動産の減価償却の計算では、土地と建物を分けることが大切です。
前述の通り、建物を含む減価償却資産は時間が経てば経つほど価値を失っていくものが対象となっているのに対し、土地は時を経ても価値が変動しないため減価償却の対象になりません。すでに所有している土地に建物のみを建築する際には、建物の金額は明確ですが、土地と建物を購入した際には、購入金額に建物と土地の金額が含まれているので、別途、建物の金額のみの算出が必要な場合もあります。
建物減価償却費の計算方法、定額法と定率法について
不動産における建物減価償却費の計算は、定額法、定率法のいずれかで計算をする必要があります。ここでは、建物減価償却費の計算が必要になるタイミングをはじめ、建物減価償却費の2種類の計算方法や計算時の注意点、などについて解説します。
建物減価償却費の計算はどのような時に必要か?
建物減価償却費の計算が必要なのは以下の2つのケースです。
・賃貸収入がある場合
マンションやアパートなどの賃貸経営をして賃貸収入がある場合、建物減価償却費の計算が必要です。所得税の納付時に、原則として賃貸収入を所得で申告しなければいけませんが、減価償却は経費として計上することが許されています。
・不動産売却をする場合
不動産売却をする場合、不動産譲渡所得が発生します。不動産譲渡所得とは、不動産売却で生じた所得を指しますが、その発生時に減価償却の計算が必要になってきます。他所得とは分離し所得税と住民税が課される仕組みです。
減価償却費の計算方法:「定額法」と「定率法」とはどのようなものか
減価償却費の計算方法には、定額法と定率法の2種類があります。それぞれの計算式とともに違いについても覚えておきましょう。
・「定額法」「定率法」の計算式
定額法:取得価額×償却率
定率法:(取得価額-前年度までの償却費の総額)×償却率
定額法とは、原則として毎年の減価償却費を同額に定めた計算方法です。一方、定率法は、取得年度の減価償却費が高く、年とともに減価償却費が減少していくことが特徴で、償却保証額に満たなくなった年度分以降は毎年同額で計上します。
会計上、定額法での減価償却費は毎年一定額となるのに対し、定率法は初年度に多く減価償却費を計上するため、その年に納める税金の額が異なります。
建物の減価償却では、建物本体と建物設備の取得費用をそれぞれ別途で計算します。その際、建物本体には定額法のみが適用できます。一方、建物設備については、定額法と定率法の双方の適用が認められていましたが、2016年4月1日以降に取得した建物附属設備・構造物については定額法のみの適用となっておりますので注意が必要です。
定額法・定率法による減価償却費の計算式に出てくる各項目について
定額法及び定率法を用いた際の減価償却費の計算式に登場する各項目について概要を押さえておきましょう。なお、減価償却費の計算の詳細については、それぞれ後述していますので、そちらを参照してください。
・取得価額
前述の通り、不動産の減価償却を行う場合、建物と土地の取得費用(建築費や購入価格)を別々に分け、建物のみの取得費用を算出しますが、この建物取得費用を取得価額と呼んでいます。マンション一棟の購入などで金額の内訳がない場合は、固定資産税評価額をもとに計算する等、一定の方法で計算することになります。
・耐用年数
耐用年数とは、一般的に建物の取得費用を振り分けることができる資産の使用可能期間のことです。耐用年数には、法律によって定められている「法定耐用年数」があり、建物の種類や構造、用途によって大きく異なります。
・償却率
償却率とは、建物減価償却費を割り出す際に、取得時の価値に掛ける率をさします。国税庁の「減価償却資産の償却率表」にて定められており、耐用年数に応じた償却率を使用します。
関連ページ:減価償却の計算方法は?定額法・定率法の違いをわかりやすく解説!
建物減価償却費の計算の前に知っておきたい2007年の税制改正
建物減価償却費の計算にあたり、特に注意したいのが2007年に実施された税制改正です。不動産の取得日が2007年の3月31日以前と4月1日以降では前述の償却率および計算方法が異なるので、よく確認しておきましょう。
前章にてご紹介した以下の計算式は、2007年4月1日以降に建物を取得した場合のものとなります。
定額法:建物の取得価額×償却率
定率法:(建物の取得価額-前年度までの償却費の総額)×償却率
それに対し2007年3月31日以前に建物を取得した場合は、以下の計算式になります。
旧定額法:取得価額×90%×旧定額法の償却率
旧定率法:(建物の取得価額-前年度までの償却費の総額)×旧定率法の償却率
なお、税制改正前後の定額法、および定率法の償却率については、以下の国税庁のサイトを参考にしてみましょう。
建物減価償却費の計算に必要な取得価額(取得費)について
建物減価償却費の計算に必要となる取得価額(取得費)について見ていきましょう。「建物の取得」には、土地に建物を建てる場合と、建物付き土地を購入する場合とがありますが、ここでは土地に建物を建てるケースを中心に解説します。
不動産の取得価額(取得費)とは
建物減価償却費の計算を行うためには、建物の取得価額がいくらかを把握する必要があります。この建物の取得価額には、建物の購入代金や建築代金をはじめ、購入時にかかった税金や仲介手数料などが含められることが特徴です。
建物建築時および不動産購入時にそれぞれ取得価額に該当するものは以下の通りです。
【建物建築時に取得価額となるもの】
・建築代金
・建築時にかかった税金(登録免許税、不動産取得税、印紙税など)
・測量費
・地質調査費
・整地費・建物の取り壊し費用など
・一定の借入金利子
【不動産購入時に取得価額となるもの】
・土地・建物の購入代金
・購入時にかかった税金(登録免許税、不動産取得税、印紙税など)
・仲介手数料
・設備費
・改良費
・一定の借入金利子
建物減価償却費に関わる建物の取得価額の確認方法
建物減価償却費に関わる建物の取得価額の確認方法ですが、建物を建築した際の「工事請負契約書」などに「建物の金額」が記載されている場合は、その金額を建物の取得費として使用して問題ありません。
しかし、工事請負契約書の紛失により建物の金額が不明な場合や、一戸建ての購入などにおいて売買契約書に土地と建物の内訳が記載されていない場合など、建物の金額が不明な場合は、建物と土地の取得費(購入価額)を算出するために計算が必要です。
また、不動産取得時に取り交わした売買契約書の紛失などが発生し、金額の内訳が分からない場合には、いくつかの算出方法を用いて建物価格を計算することになります。この建物価格の算出方法の代表的なものとして、次にご紹介する4つがあります。
土地と建物を一括購入した場合で金額の内訳が分からない場合の取得価額の算出方法
・建物にかかった消費税の金額から建物価格を計算する
売買契約書に消費税の金額の記載がある場合、消費税の金額を消費税率で割ることで、建物の取得価額を算出することができます。売買の年月日により消費税率が異なるため、必ず取得時の消費税率を用いるようにしましょう。
【例】
売買代金総額が2,000万円、消費税が60万円(消費税率10%)の場合の建物価格は、
建物価格:60万円(消費税)÷0.1(消費税率10%)=600万円
土地価格:2,000万円(売買代金総額)-600万円(建物価格)-60万円(消費税額)=1,340万円
となります。
・建物の標準的な建築価額から建物価格を計算する
「建物の標準的な建築価額表」をもとに算出した金額を按分の基準にする手法です。
「建物の標準的な建築価額表」には、建築年や構造ごとに1平方メートルあたりの建築価額が記されています。
・土地と建物の固定資産税評価額の比率で按分する
土地と建物の固定資産税評価額の比率で按分する手法で、一般的に最も多く用いられています。固定資産税評価額は、固定資産税の課税明細書に記載されていますが、購入年度の課税明細は売主が所有しているので、売主に写しをもらう、あるいは役所に出向いて評価証明書を取得しましょう。
・不動産鑑定士の土地と建物の鑑定評価額の比率で按分する
不動産鑑定士に依頼し、土地と建物の取得を按分してもらう手法です。税務上、最も確実な手法ではありますが、鑑定士の依頼費用がかかることを注意しておいてください。
建物の取得費に含めないことができる費用
前述の通り、建物などの減価償却資産を購入した際には、原則として購入時にかかった税金や仲介手数料など、購入のために要した費用が取得費に含まれます。ただし、取得に関する費用であっても取得費に含めないことができる費用もあります。建物の取得費に含めないことができる費用としては、不動産取得税や減価償却資産を取得するための借入金の利子などがあります。詳しくは下記の国税庁のホームページでご確認ください。
参考:No.5400 減価償却資産の取得価額に含めないことができる付随費用|国税庁
建物減価償却費の計算に必要な耐用年数について
建物減価償却費の計算において、当該資産を何年かけて分割するかを定めている耐用年数というものがあります。ここでは、この耐用年数を使用しての計算方法や計算時の注意点も交えながら解説します。
減価償却費に関わる建物の「耐用年数」とは
減価償却費を算出する際には、建物の「耐用年数」の理解が必要です。
耐用年数とは、その減価償却資産が利用できる年数を定めた年数のことです。費用配分に使用、あるいは税額算定を目的とした税法に規定されるなど、不動産評価をする上で様々な用途に用いられています。
減価償却資産は年度ごとに費用配分しますが、恣意性の排除を目的に「資産の種類」「構造」「用途」に分けて耐用年数が定められており、建物の法定耐用年数は「構造」と「用途」により決められています。
以下のように、同じ建物でも、鉄骨鉄筋コンクリート造と木造で耐用年数が異なります。
・RC(鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造かつ住宅用):47年
・2×4木造(木造・合成樹脂造かつ住宅用):22年
法定耐用年数の例として以下を参考にしてください。
建物の主な法定耐用年数(一部抜粋)
構造・用途 | 細目 | 耐用年数 |
木造・合成樹脂造のもの | 事務所 | 24 |
店舗・住宅 | 22 | |
飲食店 | 20 | |
鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造のもの | 事務所 | 50 |
住宅 | 47 | |
飲食店 | – | |
└延べ面積のうち木造内装部分面積が30%より大きい | 34 | |
└その他のもの | 41 | |
金属造のもの | 事務所 | – |
└骨格材の肉厚が4mmより大きい | 38 | |
└同3mmより大きく4mm以下 | 30 | |
└同3mm以下 | 22 | |
店舗・住宅 | – | |
└骨格材の肉厚が4mmより大きい | 34 | |
└同3mmより大きく4mm以下 | 27 | |
└同3mm以下 | 19 | |
飲食店・車庫 | – | |
└骨格材の肉厚が4mmより大きい | 31 | |
└同3mmより大きく4mm以下 | 25 | |
└同3mm以下 | 19 |
引用:主な減価償却資産の耐用年数(建物/建物附属設備)|国税庁
築年数が法定耐用年数を超えた場合の中古資産の耐用年数の計算方法
築年数が法定耐用年数を超えた場合の計算方法は以下の通りです。
耐用年数=法定耐用年数×0.2(端数切り捨て)
たとえば木造の飲食店の場合、前述の「建物の主な法定耐用年数」によると法定耐用年数が20年になりますが、これを上記計算式に当てはめると、20年×0.2=4となり「4年」が耐用年数となります。
築年数が耐用年数を超えていない場合の中古資産の耐用年数の計算方法
築年数が耐用年数を超えていない場合の計算方法は以下の通りです。
耐用年数=(法定耐用年数-築年数)+築年数×0.2(端数切り捨て)
今度は鉄筋コンクリート造で、築年数が20年の事務所を例にしてみましょう。
鉄筋コンクリート造の事務所の法定耐用年数は、前述の「建物の主な法定耐用年数」によると50年です。これを上記計算式に当てはめると、(50年-20年)+20年×0.2=34となり、「34年」が耐用年数になります。
償却率に応じた建物減価償却費の計算方法について
償却率に応じた建物減価償却費の計算方法について解説します。
「償却率」の意味と概要
償却率は、定額法・定率法のそれぞれで定められており、どちらの計算方法を使用するかで変わってきます。どちらを選択しても法定耐用年数が経過した際に残された未償却部分は同額になりますが、費用として償却するスピードが異なることが特徴です。
注意すべき点は、2007年4月1日に定額法と定率法が、2012年4月1日に定率法のみが再改正されていることです。特に定率法に関しては、減価償却資産の取得時期により適用される定率法が以下のように異なります。旧定率法と新定率法では計算式と償却率等が変わり、新定率法(250%)と新定率法(200%)では償却率等が変わってきます。
・2007年3月31日までに取得:旧定率法
・2007年4月1日~2012年3月31日の期間に取得:新定率法(250%)
・2012年4月1日以降に取得:新定率法(200%)
「新定率法(250%)」の250%は、定率法の償却率が定額法の償却率の250%という意味です。「新定率法(200%)」の200%も同様で、定額法の償却率に乗算することで定義されています。
「償却率」の確認方法
償却率の確認方法は、耐用年数をもとに国税庁が定める「減価償却資産の償却率表」から割り出します。不動産取得日が2007年3月31日以前か、2007年4月1日以降か、もしくは定率法か定額法かによって異なるので注意してください。
建物減価償却費の具体的な算出方法
建物減価償却費の具体的な算出方法について解説します。
建物減価償却費の計算例【新築RCマンションの場合】
下記の条件を例として、定額法での建物減価償却費の具体的な計算方法を見ていきましょう。
・建物減価償却費の計算例(新築RCマンション)
2019年10月に建設した新築RCマンション
建物価格:3億円
・耐用年数
まず耐用年数を算出します。新築ですので、そのまま法定耐用年数を用います。RCマンションの法定耐用年数は47年となっています。
・建物減価償却費
この新築RCマンションの建設年月は2019年10月のため、2007年の税制改正後の定額法の計算式(定額法:建物の取得価額×償却率)に当てはめて計算します。
この場合、3億円に、国税庁の「減価償却資産の償却率表」から割り出した耐用年数47年の定額法の償却率である0.022を乗じた「660万円」が建物減価償却費となります。
建物減価償却費:3億円×0.022(耐用年数47年の償却率)=660万円/年
関連ページ:減価償却の計算方法とは?アパート経営・マンション経営の節税方法減価償却費累計額とは? 減価償却費との違いについて
最後に、減価償却費累計額の概要と、減価償却費との違いについて見ていきましょう。
減価償却費累計額と減価償却費との違い
減価償却費とは、単年度の減価償却費をさします。対する減価償却累計額は、現在までに計上してきた減価償却費の累計額です。取得価額から減価償却累計額を差し引いた金額が帳簿価格になります。
減価償却累計額は「間接法」という仕分け方法で計上する金額
決算書を作成する際、お金の動きの記録を目的に帳簿作成を行いますが、これを記帳と呼んでいます。記帳時に、各取引を勘定科目に分類して行うことを仕訳と言い、仕訳を行う際の勘定科目も存在します。
決算書に減価償却を記帳するには、減価償却費を固定資産勘定から直接減額する「直接法」と、減価償却累計額を出し、固定資産勘定から間接的に控除する「間接法」のどちらかを選択する必要があります。「間接法」を選択した場合、通常、「減価償却累計額」という勘定科目を用いて記帳します。
<間接法を用いた帳簿の例>
期首に取得した法定耐用年数10年の備品を購入した場合
(取得原価:300万円、償却方法:定額法、耐用年数:10年、償却率:0.100、減価償却費:30万円)
借方 | 貸方 | ||
減価償却費 | 300,000円 | 減価償却累計額 | 300,000円 |
減価償却をしっかり押さえて、土地活用の検討を
アパートやマンションの建築・購入をする際には、耐用年数を踏まえた長期間の運営計画が重要です。アパートやマンションの経営をする際には、建物の建築前から運営までを、総合的に専門家と協力しながら進めることが大切です。
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