クリエイターズトークCREATORS TALK

建築家 西田司 × インテリアデザイナー 橋本夕紀夫時が経つほど
価値が高まる賃貸住宅とは

西田司さん(以下 西田) ー 最近、まちづくりの仕事で感じたのは、自分たちが「つくる」ことに価値を見出す人が多いことですね。

橋本夕紀夫さん(以下 橋本) ー 近年は、集合住宅でもカスタマイズを推奨する例が増えている。かつてのマンションの生活環境は、つくり込まれた空間が与えられてきたわけですが、入居者が積極的に住空間づくりに関わるようになってきたのだと思います。

西田 ー 建物に「余白」があれば、そこを入居者たちでつくりこんだり、みんなで使うことを考えたりするようになると思う。遊歩道に面したテラスを、住まい手たちが自由に彩る〈アールコート早稲田〉のテラス空間は、それに近いところがありますね。都市生活者たちは、内部の空間だけではなく外の空間を含めて一体的に充実させたいという欲求があると感じています。外に向かって開かれた環境を、住まい手みんなでつくっていくコンセプトは良いなと思いました。

1/ 10

は神田川の桜並木に面した賃貸住宅。
入居者の個性がテラスににじみ出すミックス感覚のファサードが特長で、各住戸の楽しい暮らしぶりがモザイク状に見え、活き活きとした都市環境の創出に貢献している。
2013年グッドデザイン賞受賞。

橋本 ー アムステルダムでは、表から住宅の室内が丸見えで、あの空間は意識としては、セミパブリックなんだと思います。〈アールコート早稲田〉のテラスも同じで、プライベートエリアのパブリックを入居者自身で彩り、その風景を道行く人々にシェアすることで、街も暮らしも楽しくなりますね。

築45年の古い賃貸住宅の建替えプロジェクト
1/ 10

傷みが酷く、空室が多い旧建物は、街の雰囲気を損なっている印象が否めなかった。景観イメージに合うデザインとクオリティで、街の魅力向上にも貢献。地域の住民にも喜ばれた。

西田 ー 生和コーポレーションには、建てて終わりではなく、ご相談から経営サポートまでワンストップでトータルサポートする運用システムがある。通常、建物価値は時間とともに下がるものですが、生活的な価値が建物を彩っていくと、その価値付けで逆に賃貸住宅の魅力は上がっていくかもしれません。その可能性を感じさせるシステムです。

橋本 ー このシステムはオーナー、入居者、さらに周辺の住民にとってもメリットがあると思います。〈アールコート早稲田〉最上階にはオーナールームがありますが、オーナーが同じ集合住宅内に暮らすと、建物の新しい価値付けに関わることもできると思います。生和コーポレーションの賃貸住宅は、開発パターンを押し付けず、オーナーの希望に応えて丁寧にカスタマイズしながら設計するのも良いですね。

西田 ー そのほうが間違いなく建物への愛着も育つし、建物も最適化され続けるように思います。生和コーポレーションのウェブサイトには新しい建物のオーナールームに暮らすオーナーの声が公開されていますね。もともとは相続対策や収益確保からのプロジェクトですが、オーナーは先代の土地を良いカタチで次代に渡したいと考えているはずです。経済性はもちろん、地域の人々に語ることができる価値や思想とともに受け継いでほしいと思いますね。

橋本 ー 日本の都市生活は賃貸が基本。昔はほとんど賃貸住宅で都市環境ができていた。所有しなくても素晴らしい生活が送れるなら満足できるんです。その感覚をうまく呼び戻したいですよね。